第31話 連合軍瓦解

031 連合軍瓦解


足利連合軍は完全に瓦解した。

義昭とその取り巻きは逮捕。朝倉義景は戦死。浅井長政は逃亡。六角義賢も逃亡。

戦死者は数知れず。実際の戦闘におけるの数は膨大になるものだが、この場合、が本当に相当な数になっている。

鉄砲の攻撃能力が死亡者を増大させている。また、騎馬隊の突撃能力も恐るべきものとなっていた。まさに、地獄の戦場、生き残った兵士のほとんどは、PTSD状態になっていた。

鬼の鈴木に歯向ってはならない。という脅迫観念が刷り込まれた戦いとなった。


六角軍は逃げる途上、本願寺の攻撃を受ける。

さらに、観音寺城に逃げこもうとしたが、すでに、伊賀、伊勢の勢力が先回りし、占領していた。


浅井長政は何とか小谷城に逃げ帰るも、今度は美濃の織田軍が北近江に侵攻を開始していた。

重當大和守の軍は、山城を完全に掌握。南近江へと進出、そこで織田軍団と睨み合う状況に至る。一触即発の緊張した場面になる。


だが、これも長くは続かなかった。

美濃方面に武田軍が襲いかかったからである。

織田軍団は、美濃防衛の為に仕方なく撤退した。

当然このために、武田とは、打ち合わせが行われていた。


こうして一連の鈴木家下克上の戦いは終結する。

足利義昭は、征夷大将軍の職を返上し、関東管領上杉謙信預かりとなり、隠居を命ぜられる。

三淵藤英は、今回の事態を巻き起こした首謀者として切腹、その他重臣達も同様の沙汰が下る。足利将軍家の大黒柱がすべて倒されたのである。



六角氏は結果的に滅亡。

朝倉家は朝倉景鏡が跡目を継いだ。

浅井家は、鈴木家に臣従することで家の存族が認められる。

もっとも、まだ野望を持っていたとしても重當と戦う気力は完全に失われたであろう。

それだけ、恐ろしい戦いであった。まったく歯が立たなかった。戦いにすらなっていなかった。虐殺されただけの戦い、まさに絶望、地獄であった。

長政の髪の毛が真っ白になってしまったというくらいに。


九十九重當は、京で帝から、従三位近衛中将兼西戎大将軍に任じられる。

配下も同様に位階を賜ることになった。

管領明智光秀の名が西戎大将軍から日本各地に通達される。

管領明智光秀は、山城国大名として、畿内の統率を行うことになる。

南近江には、真田昌輝(幸隆の次男)が大名として、畿内から東部をにらむ。

勿論補佐として幸隆がいる。居城は観音寺城、防衛拠点として防御力向上措置を行う。

越前の朝倉景鏡は、臣従の道を選んだ。すでに大国に成長した重當大和守の大軍に勝てるわけもなく。弓を引く姿勢をとれば、直ちに攻め込まれる未来しかなかったからである。

逃げ延びた兵士たちのいくたりかは帰ってきたが、皆がひどい状態で、双頭の八咫烏を見ると、悲鳴を上げて半狂乱になったという。


そしてそれと同じような感慨をもった武将も存在する。

吉川元春、小早川隆景であった。あれはダメダ。今までもかなりおかしかったが、今回はスケールの違うおかしさを感じていた。

何がおかしいか。先ずこちら側兵士はほぼ無事であるところである。

戦とは、敵と切り結ぶ、そして殺す。だが、この戦いの異質さは、切り結ぶ前に敵が皆死んでいくところだった。壮絶な銃砲の一斉射撃が脳裏によみがえる。

三連斉射のライフル銃、皆は火縄銃などと呼んでいたが、明らかに火縄はついていなかった。鎧と肉を貫くくぐもった音。多くの敵兵士が即死、ひん死になっていた。


小大名との戦ではこのような状態も起こるのかと思っていたが、万の兵が争う戦いでもほぼ同じような経過をたどるのであった。

大砲の一斉射で次々と城内に巻き起こる爆発と火炎、煙。城内はまさに、見てはならない現場となっていた。


「儂もどこかの大名をお願いしてみるか」と吉川元春。

「今だと、北近江を任されることになるでしょう」と小早川隆景。

京都を守る壁の役割である。

まさに、適役を探していたのである。そして、吉川元春ほどの猛将なら適任である。

「なんだか、それではつまらんな」

「そうですね、まだ先があるように思います」

「お前がそういうなら、そうなんだろう。待つとするか」

「それが、我が家の為になるでしょう」

美貌の青年、隆景は何を見るのか。

「それより、ついにお前にも子ができるそうではないか?安心したぞ」

「・・・はい」少し恥ずかしそうに隆景は下を向く。

彼には、嫁がいたのだが、子はいなかったのだ。(そもそも、そういうことをしなかったという説もある)

望月千代が妊娠したのである。

「大名なんだから無いと逆に争いになるのだぞ」

「はい」隆景が気合を入れて前を向く。


北近江には、松永弾正が大名として選ばれた。与力として城真因友通(元岩成友通)がつくことになる。

そして、双頭の八咫烏の軍団は、山城を北上する。

それは破竹の勢い、いやモーゼのように、海を割るように敵は道を開けるがごとく。

丹波の山名氏はやはり戦った。

しかし、あまりにも相手が悪かった。

丹波は山国で攻略は難しいとされる土地。

だが、地形はすでに調査され、砦にも、忍びが入り込んでおり、しかも手りゅう弾、爆弾。毒殺といやらしい攻撃は、山名氏の気力を喪失させていく。

そもそも、彼らは手りゅう弾を見ても何の道具かすらわからないのだ。

大工道具ですといわれればそうなのかと通してしまう。

爆弾も同様である。

門が吹き飛び、館が火炎に包まれる。食事には毒が入れられてある。

敵兵が列をなして攻めてくるころには、下手をすると、砦の兵士がいなくなっているのである。

こうして、丹波は、完全に攻略された。人々は鈴木軍を悪鬼羅刹のように恐れるようになっていた。


丹波は約束通り、尼子義久が統治することになる。立原ら家臣が付き従い、旧領国の者たちが呼び寄せられる。元の支配者山名氏は、尼子家家臣となる道を選ぶしかなかった。



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