第30話 詰み

030 詰み


全軍突撃の命令が発せられるが、城がかなり悲惨な状況なのは、外に居れば嫌でもわかった。辺り一面もうもうと煙が立ち上っている。


「突撃!」しかし、口ではそういいながら、六角義賢は、逃げる算段を部下に伝えていた。戦略的撤退である。

朝倉、浅井軍は突撃を開始する。

所謂、万歳突撃に近い状態である。

槍を構えてひたすら突進するのである。

六角軍は後ろからついていき途中で方向転換を図る。


ついに、猛烈な突撃が咆哮とともに近づいてくる。

だが、その前には、対人地雷クレイモアが仕掛けられており、足で紐を引っ掛ければ爆発するようになっていた。

それは夜の間に忍び達が、仕掛けていたものである。

少なくとも2万近い兵員が走ってくれば、ひっかかるなという方が無理がある。

バーン!ドカ~ン!爆発すれば、キルゾーンに鋼鉄の玉をまき散らす。

血まみれの兵士がバタバタと倒れる。


柵の前にたどり着くかなり前に、疾走の勢いは完全に止まる。

何が起こっているのか、彼らは全く分からぬ間に黄泉に旅立ったのである。


滝川一益が、采配を振るう。

まさに数千発の弾が、ライフルから発射される。

まだ、2町(200m)もあるのに、その弾は兵士を貫通する。

兵器の進化は日進月歩。雑賀銃は火縄銃から、ライフル銃に進化していた。


総崩れであった。

突撃命令を出した朝倉氏は後方で監軍を努めていた。

しかし、そこにすら、砲撃が着弾を始める。

伏せていれば、被害を軽減することができるのだが、彼らは知らない。

朝倉義景、いささか、戦意の少ない、貴族にかぶれた武将。

彼は、砲弾の爆発に巻き上げられた。


総崩れになると組織的抵抗がない状態に陥ってしまう。

こういう時は、殿軍でんぐんを決めて、命を賭けて逃走を手助けしなければならない。

殿しんがりはゆえにとても危険である。連合軍などはこうなると烏合の衆、こうなってしまえば、先を争って逃げるしかない。他家の為に命を張るなど馬鹿らしいことこの上ないからである。


こういう場合に必要なのは追撃のスピードである。

そして、そのための死の遣いが赤い鎧をつけて、待っていた。

鈴木重信、山県兵部である。彼らは武田を追放され新しい名を名乗っていたが、周りの者は。武田義信殿、飯富兵部(虎昌)殿と変わらず呼んでいた。

そして、この部隊には、井伊直政も加入していた。運命的な何かに惹かれたのかもしれない。


「追え!」飯富兵部が命令すれば、大型馬が突撃を開始する。彼らは、ライフルホルスターを馬に吊っていた。

一方、黒鎧の騎馬部隊が存在した。「相手が赤なら、儂は黒じゃ」全身黒備えの騎馬部隊が出現した。

此方の大将は、前田慶次郎である。その配下に、島左近、本多忠勝、可児才蔵などがいた。彼らは従来のスタイルの騎馬武者である。

大地を揺るがす大音量の蹄の音が轟く。

その音がさらに逃げる兵たちを精神的に追い詰めていく。


まさに、逃げる兵にとってはこの世の終わりのような光景が広がる。

馬の速さは圧倒的であり、黒武者の武芸は並外れていた。次々と馬上から切り殺されて、突き刺されていく。


一方の赤武者は、高速で移動しながら、発砲した。

そして、続けて射撃!なぜか、弾入れや玉薬を入れるそぶりもないのに。

この騎馬武者こそ、新鋭騎馬鉄砲隊であった。

中でも、神経質な馬に、射撃音を耐えさせる訓練には、相当な試行錯誤が必要だった。

きっと、戦国時代には、騎馬鉄砲隊は実現不可能なのかもしれない。

だがその男はある手段で其れを可能ならしめたのだ。


六角氏が最もうまく逃げられた。

最初に逃亡したからである。

浅井長政は、馬がよかった。小さいが。

朝倉軍は大将を消失したため、混乱状態の中で相当数が討ちとられていった


城の方では、足利義昭、三淵 藤英(みつぶち ふじひで)が逮捕される。

彼は、細川藤孝の兄である。

彼らは砲撃が止んだ後も抗戦していたが、海兵隊が攻め込んで一気に占領してしまった。

もともとが、それほど強くもないのと、ほぼ放心状態であった。

砲撃が終了し、ホッとしていたところを今度は、柄付き手りゅう弾のさく裂で精神が崩壊したのである。


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