第29話 詰将棋

029 詰将棋


重當軍全軍が完全に戦闘準備を終える。

陽の昇る前から狙撃チームがギリースーツを被って狙撃地点まで匍匐前進をし、戦闘開始までの間、周囲を警戒する。


戦闘の開始は嫌でも知ることになる。猛烈な砲撃から始まるためである。

今はまだ、朝餉の時間。今日の長い戦いの為に飯を食っている。

狙撃チームは複数が城外での突撃部隊へ狙撃を狙っている。

主力の武将を死亡させれば、多くの兵力を無力化させることができる。

今や、それを一兵士が行えるのである。

今までであれば、敵軍をぶち破り、主将を打ち倒すという力技であった。

しかし、たった一発の弾で其れが可能となった。主だった武将はやはり木っ端とは違う豪華な鎧を着ている。簡単にそれを発見、討ち取ることができる。


龍歩留度は、遠くのものを近くのように見せることができる。

弓では不可能な距離を一直線に飛んで、武将を死亡させる。

これもまた、革命的な出来事だった。

弓は大変な威力を持っているが、即死ということはそれほどにない。

だがこの銃はどうか、腕を撃ち抜いてすらそのショックで人が死ぬことが有る。

鎧ごと、貫通する力がある。兜も同じ。

今までの防御方法がまるで通用しない。

最も簡単な防御それは、塹壕である。

できるだけ、直線的な視界空間から身を隠す方法が確実である。


砲術家佐々木義国、稲富祐直、稲富直秀らは、早い時期から、銃から大砲へとシフトし道を究めてきた。そして、下間頼廉は、早く狙撃部隊への転属を望みながら、芝辻砲(すべてそう呼ばれている。形は様々なものが存在している)の陣地にいる。

すべての砲門は、勝竜寺城に狙いを定めている。


鈴木側から望めば、城の左側に敵軍本体が存在する。

右側は宇治川だからである。


城の左側の本体には、砲撃を行わない。

突撃させて、柵で防いでいる間に一方的に銃撃するため突撃を阻害してはならないからである。


駒の配置が行われ、後は、開始を待つのみである。

足利連合軍の突撃部隊は、城外左方の後方に布陣している。

こうすれば、城を攻めている間に、挟撃できることになるからである。

そう、敵が城に対して総攻めを掛ければである。


「この戦いは、それほど意味がない。勝ったところで、日本を支配できるわけでもない。だが、負けるわけにもいかん。新しく来た者たちは、十分に安全に注意して、戦果を上げよ」いかにもやる気のない挨拶が行われる。


しかし、征夷大将軍対西戎将軍の天王山であった。

幸い、天王山は近い。ただし今回の戦場ではない。そして、天王山という言葉が何らかの意味を持つこともこの世界ではない。

そういう意味では、関ヶ原も危ないかもしれない。


「撃ち~方用意!」大砲部隊に対して、旗が振られる。

突撃してこないならば、燻りだすだけである。

たとえ城が瓦礫の山になろうとも。


「撃ち~方はじめ!」佐々木義国が命令する。

ドン!   ドドドン!

10門が火を噴く。

「着~弾、今!」城内外に次々と爆発が起こる。

炎と土けむり、轟音が周囲を包む。

「てえ!」今度は稲富佑直。

ドン!   ドドドン!

「撃て~!」今度は下間頼廉。

ドン!   ドドドン!


「着弾修正、再発射準備急げ!」


勝竜寺城のあちこちから煙が上がっている。

砲弾は、さく裂弾のため、石垣が壊れる程度という訳にはいかない。

辺り一面に、吹き飛ばされた兵士の死体が量産される。

危うく、足利義昭も直撃を受けるところであった。

「何じゃ!これは一体どういうことでおじゃるか」

恐らくこの惨状を正確に説明できるものはいない。

塹壕に入っていれば、それほどの被害は出ていないが、全員が、直立状態では、どうしても被害が拡大する。

この理屈を理解するには、なかなかに経験がいるものなのだ。


そうこういっている間に第2斉射が始まる。

周囲に火柱が吹き上がる。

破片一つで、人に穴が開く。

「藤孝!」

「う え さ ま」口から大量の血を吐き出して、希代の武将は潰えた。

「何をしておるのじゃ、全軍に突撃を命じよ!」怒りに駆られた義昭は、伝令に命じる。

「藤孝の仇をとれ!奴らを皆殺しにするのじゃ!」


細川藤孝が生きていれば、直ちに撤退を命じたであろう。

朝倉軍をおとりにして。しかし、義昭には、そのようなことはわからなかった。

寺では、孫氏の兵法など習っていなかった。

習っていても、逃げることを考えたかどうかはわからないが。



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