第27話 戦雲走る

027 戦雲走る


山城国、特に京都の都市部は大混乱に陥っていた。

すでに、足利将軍家の軍団が上洛しており、鈴木本家家臣の先導で金鵄八咫烏城へと進軍していた。

しかし、本願寺の鉄砲隊が奇襲攻撃を行い。戦闘に突入していた。

そして、数日後驚くべき凶報が届けられる。


金鵄八咫烏城落城。


足利軍団に衝撃が走る。


それに呼応するように、各地の大和守恩顧の大名、武将が立ち上がる。

特に大和の松永、筒井軍が立てば、すぐに京都を攻撃することができる。

しかも、金鵄八咫烏城にも続々と、淡路、紀伊などから軍団が集結しているという。

伊勢の北畠も腰をあげれば、直ちに、伊賀甲賀が援軍を申し出る。


男はともかく、その腹心たちは、諸国のことにも十分、心を砕いており、着々と準備を整えていたのであろう。


しかも、本家の重意佐太夫は捕虜の憂き目を見ていた。

これで、本家は空中分解してしまう。

本家の重臣たちの相当数が、城内で惨殺されていた。


「これは一体、どうしたことか」足利義昭は、細川藤孝に言った。

「何としたことでしょう、重意め簡単に城を落とされおって」そういうしかなかった。

城に兵を入れれば、姫路城の孫一と連携し、諸国を牽制することが可能であったろう。

策略は順調に進んでいたのである。


重意の息子孫一が西戎大将軍を返上すれば、九十九重當も西戎将軍の職を辞するしかなかったはずであった。

そうすれば、副将軍として、鈴木重意を懐柔すれば、実質の将軍は義昭をおいてほかにない。

近江、京都、大阪、姫路の防御ラインが構築できれば、実質畿内覇者となるはずだったのである。

そして、実質5万に上る軍事力は相当なもののはずだったのである。


実態は、鈴木軍団がほぼ解体され、3万である。

朝倉、六角1万、浅井5千、足利5千という構成である。

そして、敵方大和守重當は海兵2万それ以外に通常兵力2万の4万、毛利、小早川で1万。

大和方面、松永、筒井で1万。

伊勢方面、1万。

全軍で7万ともいわれる大軍団が動き出していたのである。


そして、伊勢、大和方面軍出現の報に六角義賢が臆病風に吹かれ始めるのである。

だが、その臆病風は当たっていた。

美濃から、虎視眈々と織田家が様子をうかがっていたのである。

このころの織田家は、尾張、美濃を制圧。徳川家と同盟し東海方面に力を誇示していたが、武田を恐れてもいたのである。武田は、今川が終焉を迎える時、遠江に出張ってきていたのである。

武田は、上杉とあまり戦っていない。

そもそも、越後にでても、益はない。遠江の方がはるかに海運などに都合がよく気候もよいのである。

『義信事件』では、皆が赦免されたために、家臣団は安定していた。

そして、ある男が言った言葉が効いていた。「時には戦わずに待つのも良作でござる」

暗に、上杉と戦うなといっているように聞こえたのである。


こうして、戦国最強の武田軍が東進をふさいでいたのである。

これでは、畿内方面にしか、進出できないのは当然である。

そういう訳で、織田家は美濃に軍団を準備していた。

すぐにでも、近江へ進出、隙あらば上洛作戦を敢行する。

ゆえに、できるだけ長く金鵄八咫烏城周辺で戦闘してくれることを信長は望んでいたのである。

長引けば、近江での占領地を拡大、そして、まだ上洛できていなければ敵軍を排除して、一気に京都を陥落せしめる、そのような計画が練られていたのである。

そのすべてはあっけなく終わってしまったのだが・・・。


そして、それらの情報のほとんどつかんでいる者がいた。

参謀本部である。

伊賀甲賀の草や忍びが各国の情報を送ってくれるのである。

「さすがに、織田殿だな」

「うむ、彼らは厄介だ」

「そうですな」

「殿の義兄なのに!」若い昌幸は憤慨している。(男は信長の妹を嫁に貰っている)

此方の密書(近江に侵攻する形を見せろ)は黙殺され、侵攻する計画に代わっていたからである。そこまで、融通してくれるはずもない。

「昌幸、青いな」そこには、すでに父、真田幸隆がいた。参謀本部に新加入したのである。

表裏比興の者と呼ばれた男の父親であった。


もっとも、信長も考えていたであろう。

奴等こそが、最も厄介な奴らであると。

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