第25話 沙汰

025 沙汰


鈴木重意逮捕!

衝撃の展開であった。

重意は、今この時でも、鈴木家の大殿として君臨している。

孫一重秀は、姫路城に居た。

そして、中国攻略作戦を練っていた。

だが、足元をすくわれたのである。

難攻不落の金鵄八咫烏城に居れば絶対安全である。はずだった、たとえ万の軍隊が来ても撃退できるはずだったが、自分の知らぬところからの侵入、奇襲作戦に完敗したのである。

重意は縛られ、庭に引き据えられていた。

数十の鉄砲が狙いをつけている。狙撃手からすれば、何か変な動きさえあれば、喜んで引き金を引くチャンスであった。

彼らの父は、重當大和守である。


一方の重意は、今まで城にいた家臣のほぼすべてが、斬首されていることをいちいち見せつけられた。「こいつは、我等が父に、悪口を言った」「こいつは、父に手を挙げた」

など罪状まで告げられている。中には、そんなはずがないというような罪状ですら告げられていく。「睨んだ」「肩をわざと当てた」などはほぼ言いがかりである。


重意は心を完全にへし折られた。

こいつらに逆らってはならない、今頃気づいたのである。だが、もう遅かった。

完全に処刑態勢であった。

周囲の兵は、皆海兵隊であり、血気盛んである。

全員が、『父の為に』を合言葉としているのだ。

藤林長門と加藤段蔵が先に発見せねば、重意は今頃死体で転がっていたに違いない。

彼らは、家臣の惨殺に執心しすぎたのである。


障子が開く。

そこには、大和守重當が正座していた。

「お館さま、残念な仕儀にござりまするが、これも戦国の習いにござる」

重當にとって、重意は邪魔ものであった。殺しても何ら痛痒を感じない。

気がかりは、孫一重秀である。


気がかりというのは、重秀軍の攻撃力ではない。

さすがに、長い年月を共にした間柄、兄弟のような感情が残っていたのである。

「殿、重秀殿からの早馬です」

「ここへ通せ」

「御意」


使者は、戦慄した。

すでに、重意は捕縛され、今や遅しと死刑執行が行われるような、緊迫感があった。

「で、使者殿、何用か?」戸次道雪が問い糾す。

「は、我が殿、重秀は、重當殿に寛大なお心を求めておられます」

「何をいまさら!」若い真田昌幸が口にする。


「父を助命してくれれば、姫路城は明け渡すとの申し出でございます」

いかに、姫路城といえども、この異形の軍隊の前では、無傷で居られない。

そもそも、塹壕を掘ることも知らないもの達に勝ち目などはない。


「どうか、九十九様に鍛冶見習いの頃を思い出してほしいと申しておられました」

そういわれると、確かに、芝辻師匠に弟子入りして苦労したことが次々と思い出される。


「そうか、わかった。ならば、姫路城を明け渡し、国替えを飲むことを了承するならば、重意殿を助命いたす」

「国替えとは?」

「紀伊は返せぬ、若狭を攻略し、己が国とするがよかろう」と男。

使者の顔が紅潮する。敵地を自分で切り取れというやつである。

これが原因で、明智光秀が本能寺の変を興したのだという説もあるほどだ。

「心配するな、助力はする。ただし、丹波は尼子の国としたい故、若狭国になるが」


まさに簡単に言うが、それがどれほど大変なことか。

「助けたいのであれば、疾く帰り伝えよ、諾か否か持ってまいれ」そこには、厳しい表情が浮かんでいた。


「殿!」それは昌幸である。

年の言った参謀たちは何も言わぬ。

何事も追い詰めすぎれば、逆に悪くなることを経験的に知っているからである。

窮鼠猫を嚙むということである。


「殿、しかし尼子では、さすがにいろいろと問題がありそうですが」と道雪。

「そうだな、尼子は訓練ができていない、京都の守護の為に、おいておいた方が彼にもいいだろうと思ったのだ」と男。

男には、何人もの子供がおり大名にしてやらなければならない、一番最近来たものが一番早く大名になるのは、おかしいのではということである。

順位的に言えばそうなるのだが、これからの激しい戦いでは、やはり訓練の行き届いた者でないと難しい。そういう意味で、彼は一番ひ弱で、戦闘に向いていないのである。


一体、男は何と戦うつもりなのか!

戦国乱世に平和な世界はいつか訪れるのか!

男はそのまま、口を噤んで何も言わなかった。





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