第22話 双頭の烏

022 双頭の烏


紀伊弥勒寺山城。

「殿、我らは、鈴木本家から独立を致すことにしましょう」と戸次道雪。

「うむ、大殿のなさりようは儂も納得がいかん」と男。さすがに今回のことは我慢の限度を超えた。今までは、孫一のこともあり我慢してこともあるのだ。

「殿は、少しゆっくりされるとよいでしょう、後は我ら参謀本部が、仕事をこなしますゆえ」と黒田官兵衛。

すると「旗印はいかがしましょうか」と竹中半兵衛。

そう、旗印は同じ八咫烏である。


「同じものでは、紛らわしいしな」

男はその時思いついたのである。ある帝国では、双頭の鷲をよく使っていたことを。

「双頭の八咫烏としようではないか」

「???」

そもそも、足が三本あるのだ、頭が二つあっても問題ないではないか。

男の頭に突如としてそのような考えがよぎったのである。

「八咫烏様の為に、双頭の八咫烏としよう」全く八咫烏のためになってはいない。

後に烏は抗議を行うが、すでに印刷に回されているため、無理であると断られることになる。

図柄は、きわめて、カラス感をなくし鷲に近くなっていた。


城内では、このような話が行われていたが、実際の現場では、本家から使者の射殺事件が和泉山地で発生していたし、四国では、伊予の小早川、土佐の長宗我部に阿波、讃岐攻撃命令が出されていた。

堺にも、矢銭拒否命令と様々な命令書が、伊賀甲賀の忍び達により送達されていた。

大和、伊勢、伊賀などは防備を徹底するよう指示されていたのである。


参謀本部は、独断で命令書を発布していたのである。

また、紀伊国内でも、粛清の嵐が吹き荒れていたのである。

本家側の諸族が破られ、逮捕、処刑、あるいは奴隷落ちと処分されていたのである。


これらの事実はのちに知らされることになるが、男はいま、傷心のため、子供とままごとをしていたのである。


「旦那さま、毎日、ゴロゴロしていてはいけません。稼いで来てくださいね」と明智玉は今日もご機嫌でおままごとの相手(男)にしゃべりかけている。

「おおすまん、玉殿、儂は何をして稼げばよいのかの」と男、少しだらしない恰好でゴロゴロしていたのである。

「もう、あなたしっかりなさってください」ぺちぺちと玉は男のけつをたたいている。

「玉殿、儂がわるかった、働きに行ってくる故、叩かないでくだされ」

「もう!玉は里に帰らせていただきます」

なかなかシュールストーリーなままごとであったが、男の心は癒されている。はず。


だが、参謀本部は、しっかりと命令を下していたのである。

戸次道雪、真田昌幸は完全に、男の為に行動するのを基本としていたのである。


こうして、双頭の烏(三本足)が旗印となったのである。


そのころ、農業大学頭の太田のもとに、一人の少年が連れてこられていた。

土井清良という。

伊予征伐により、逮捕されたが、農業の才能があるという、お告げがきたため、連行されてという。彼は、伊予一条に仕えていた家臣の息子である。


このころの、太田は多忙を極めていた。

米、小麦の品種改良、イモ類の生産、甜菜糖の生産等多岐にわたる仕事を熟していたのである。そして、今度は、除虫菊である。殿は儂を殺そうとしている。そのような妄想に駆られることすらあるという。

ここでいう殿とは、あの男のことである。

予算的にも、身分的にもうまくことが運んでいなかったのである。太田は本家の家臣だったので、男の提案は却下されることが多かったのである。

だが、この度の独立で自由度をやっと取り戻すことになる。


椎茸の秘密や、はちみつ栽培などの秘密がやっと解放され、誰でもかかわることができるようになったのである。それまでは家中でも、秘匿されていたため、限られた人間しかできなかったのである。


そして、農業の才能がある少年がスカウトされたということである。

「清良殿これからはそちも儂の仲間よ」目の下に隈を作った太田が笑った。

土井は観念したという。太田の目はお前を逃がしはしないと物語っていたという。



1570年この年は永禄13年で始まるが、元亀元年でもある。

鈴木本家から鈴木重當家が分離独立を宣言。双頭の八咫烏を旗印にこの国が、紀伊から、下克上侵略を開始する元年でもあった。


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