第15話 長宗我部氏
015 長宗我部氏
伊予の戦いで、一条氏が大打撃を受けたことは、土佐においても大きな衝撃を与えた。
ついに、土佐一国を統一するため、長宗我部氏は独立を宣言、攻勢に出る。
だが、その時、土佐から伊予に至る回廊はすでに封鎖されており、阿波では、紀伊鈴木家(本家)が占領し讃岐に対し攻撃を仕掛けていた。
つまり、長宗我部元親は、すでに手詰まり状態に置かれていた。
今ならば、伊予への突破も可能なのかもしれないが、いまだ、一条の残党を掃滅する必要があった。さらに安芸氏がまだ存在していた、宿縁の怨敵である。
その間に小早川が砦を強化するに違いなかった。
大洲城の戦いでは、一条の連合軍は三日ともたず、すり潰されたという。
どのような、戦いかたをすれば可能なのか見当もつかない。
それだけ、小早川軍は強かったようだ。
しかも、阿波の鈴木家こそ、いま畿内を破壊的な力で圧倒している大名であった。
事態は、さらに悪化していく。
岡豊城に、小早川軍の軍使がやってきたのである。
しかも、軍使の中に斎藤利三までいるという、一体何の冗談か?
斎藤利三は元親の正室の異父兄である。簡単にいうと親戚だ。
確か、斎藤の主人明智光秀は近ごろ、鈴木大和の家臣になったという。
陪臣になったのである。陪臣の臣だから陪陪臣だろうか。
「これはこれは」実際何といってよいのかわからなかった。
明智光秀までもがいた。
「今回は、軍使という立場で参りました」明智光秀は大変高価そうな着物を着ていた。
もともとは、土岐氏の血を継ぐ名門の出であったが、
「我が殿は、大変偉大な方でございます。今回は、御助勢するので、宿敵安芸氏を攻め滅ぼし、土佐一国を早く平定されるように申せと言っておりました」
つまり、長宗我部は土佐一国で諦めろと言っているのである。
やっと風が我が家に吹きつつあるのを感じているのに・・・。
「有難き申し出なれど」
「さすれば、千雄丸様を万石の大名に育てて見せるとのことでございます」
???
一体こいつらは何を言っている。
「殿はこう申された、長宗我部殿はきっと土佐一国では満足せぬ、しかし、隣国に攻め入ることはできぬ。そこで儂の息子になれば、外に土地を持たせてやることも可能と」
「そもそも、あなたたちは、小早川家からの使者ではないのか」
「小早川隆景様は、殿(重當)に御加勢下さる運びとなりました」
何を言っているのかさっぱり要領がつかめん。
伊予の大名になったはず、それは、毛利本家の四国攻略か九州攻略を意味するはずだ。
「鈴木大和様は何と?」
「はい、某は、殿の義理の父になりました」
そんな話は聞いていないのだがな。
しかし、いくら一門衆になったところで、
ていうか、義理の父?娘を差し出したのか?そんな年頃の娘がいたのか?
「毛利家は西戎大将軍のご命令により、中国地方を守護することに決定しました。小早川家は、独立して、伊予の守護となります、長宗我部様も殿と同盟し、土佐の守護となるのです。勿論、それだけでは不満もあるかと思います。そこで、大和守様に御嫡男を預け義理の息子とし、他の地に国を築くのです」
「他の地とは?」
「おお、それでは千雄丸様を」
「いやいや、それは困る。長宗我部の嫡男ですぞ」
「そうでしょう、しかし、殿が言われるには、どうしても、自分の息子にせぬと危ないのだと申されたのです」
「それは暗殺を意味するのか!」と元親は気色ばむ。
「違います、決して我々はそのようなことは致しません」
「そうですぞ、暗殺などたやすい」
それは、元親の後ろからの声だった。
「いつの間に」
「ずっと前からおり申した」それは、段蔵だった。近ごろ、望月千代の護衛を解任され暇だったのだ。自分ひとりだけ不正規のルートを通ってこの城に潜入していたのだ。
「大殿さまは、子供好きなので、千雄丸さまを
「そんな馬鹿な話は聞いたことがない」
「ごもっとも、私もそれを見るまでは、信じられませんでした」
だが、このころ早く集めていた子供はかなりの武将に成長していた。
それは、一目見れば違いが判るほどであった。
体つきが違う。
目つきが違う。
物腰が違う。
戦闘力が違う。
まさに一角の武将に成長していたのである。
「そんなことよりも、まずは土佐一国の統一を優先しましょう。そのうえで、これからどうするか決めればよろしいのでは」明智光秀はさも簡単なことのようにいいはなった。
ここまで来るのに、どれだけの苦労をしたと思っているのか!
「戦うことになるやもしれませんぞ」と元親。
「それは、致し方ござらぬ、我が殿は、必勝の神、八咫烏大神の加護を受けし者、簡単に勝てるのではないでしょうか」
そうして、伊予から小早川軍が、そして、海からはキャンプ淡路の海兵隊が援護にやってくる。その気になればそのまま長宗我部氏をそのまま攻め落とせるほどの兵力だった。
桂浜沖に姿を見せた大船からは、次々と兵員や武器らしきものが陸揚げされてきたのである。
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