第13話 伊予の国の戦い
013 伊予の国の戦い
松山の河野一族は平野部を支配下に置いていた、それゆえ、毛利の圧力を強く受けており、いまは毛利方である。
しかし、宇都宮氏の大須城は山城である。
守りに適している。ゆえに今まで滅ぼされることもなかったのである。
そして今、危急存亡の時であった。
毛利(小早川)の大軍が迫っていた。
土佐一条氏、西園寺氏が救援に駆けつけていた。
バランスが壊れれば彼らも、滅ぼされる可能性が高い、日ごろのいさかいはおいておかねばならない。
転換点は、尼子の滅亡であった。
それにより、毛利(小早川)にも余力ができた。
しかし、尼子の残党が、本来は、毛利を苦しめるはずだったのだが、早々に、ある男の工作により、それは潰えた。
毛利内部にも異論はあった。
なぜ、訳の分からない西戎将軍如きのいうことを聞かねばならないのかと。
だが、いずれにしても、毛利家は元就あってこその勢力であり、その元就の高齢が不安材料でもあった。
彼らは、そこを強調した。
元就が高齢で
当主の鈴木重當からの申し出よりも、配下の参謀本部の方の申し出はさらに奇妙なものだった。
「攻め取れば、我等はそれを手放す必要がある、ゆえに攻め取らず勢力を拡大したい」
戸次道雪、なんとも得体のしれない理論を展開する。
それはつまり、盤石の強さを誇る、西戎大将軍家も中では分裂しているということではないのか。
「どうとでも、考えられるがよろしい、我等は我が殿のために動いている」美青年の竹中重門である。
「左様、だからといって我らが分裂することを望んでも無理なことは申し上げておく」今度は、黒田官兵衛だった。
「一体何を望んでいるのじゃ、天下か」
「はは、さすがは元就殿、しかし、殿は天下など望まぬ。殿は神の使徒、日乃本の安寧こそ求めておられるである」戸次道雪、すでに彼はおかしくなっている。
「ああ、翻訳しますと、我等とともに、天下安寧を目指しましょうということです」少し慌てて、竹中重門がいう。
大洲城。
いままでも、何度も攻撃されてきたが、半分を川が守り、小山の上にあり、周囲も深い山になっているため、力押しの攻略は非常に難しい。
ゆえに、いまも存在するのだが・・・。
しかし、彼らは非常に奇妙なものをいくつも持っていた。
木材である。
そして、自分たちだけでは、人手が足りないため、小早川の兵にもそれらを持たせていた。
さらに、周囲には、妙な緑色の服きた鉄砲兵らしきものが複数いた。
彼等こそ、雑賀鉄砲部隊である。
この日本で今、最強の鉄砲隊といわるまでになっていたが、それほどすごいのかどうか?
先導する河野氏も噂すら聞いたことがない。
残念ながら、四国までそのような情報は届いていないのだ。
鉄砲に少し詳しいものがいたとしたら、彼らの持っているものは明らかに、世界の標準の火縄銃とは明らかに違うことに驚嘆したことだろう。
そもそも、彼らは非常に慎重で、銃をまず皮ケースにいれて担いでいた。
見られぬためと、いらぬ衝撃を与えぬためである。
彼らは、狙撃兵であった。
今回の戦いでは、彼らの新型武装を試すことになる。
ガラスレンズを使った、スコープである。
2倍のズームレンズである。
「これは何でしょうか」
狙撃兵が霜に聞いた。
「殿によると、技研が作り上げた試作型スコープ。『龍歩留度』だそうだ」
「なんですか、りゅうぽるどとは?」
「まあ使えばわかる」
ちゃんと、脱着装置が存在し、銃の方も改造されていた。
そして、それを覗きこんだ兵士は驚いた。
「大きく見えます」
そうなのだ、2倍に見えるように作られている。
残念ながら手作りのため、工業品レベルの精確さはないが。
しかし、このりゅうぽるどがやがて進化し、眼鏡や望遠鏡などを生産することになる。
いまは、2倍だが、やがて倍率も上がっていくに違いない。
そして、そのスコープには木の蓋がついている。
光の反射を防ぐためである。
「小早川軍の兵士たちよ、早く手伝え!」
そこには、馬房柵と逆茂木を作り始めた男が声をからしている。
「貴殿たちにも、これから手伝いを頼むことになる」
戦奉行の明智光秀が、小早川隆景に言った言葉である。
明智光秀は、大和守の義理父になり近ごろ勢力を伸張させている。
この戦いはこれから行う戦争では必ず必要なものとなるらしく、基礎となるので、兵士たちに覚えさせろということであった。
「大砲の陣地構築だ!」
整地し、土手を作る、大砲は発射の反動で下がるからである。
勿論場所がもっとも大事だ、射程距離だ。
それらの陣地構築中は、武者姿の侍と銃兵が周囲を固めている。
彼らは、奇襲に対応するため、陣地構築には参加しない。
「よ~し、宴の準備をおこなえ」
彼らの奇習である。
戦の前は、宴会を繰り広げるという。
勝つために、八咫烏大神に祈るだという。
無論そんな事実はないのだった。
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