第11話 書状

011 書状


かくして、戦いを避けるため還俗した尼子勝久は、鈴木大和守の養子となる。

そして、尼子の残党に対し書状を書くことになる。


その内容は、「私は、この度鈴木大和守の養子になることになったので、金鵄八咫烏城まで来てほしい」との内容だった。

この戦国でこの内容を普通に読めば、養子にされそうだ、助けに来てほしいとも深読みできあるのであった。


書状は、尼子の残党に忍びが手渡しに行くというものだった。

まさに、来ないとどうにかなりそうな予感がするのであった。


そして、その書状を受け取った、忠臣の筆頭、立原久綱と山中幸盛(まだ少年)が金鵄城の大通りへと現れる。


「我らの命を差し出す故、どうか宗晴様をお助け下され」

大通りの真ん中に座り込み、切腹の姿を取っている。白い着物を羽織っている。


「どなたかの」例の男が現れる。

「拙者、立原久綱と申します。あなた様は」

「儂は、鈴木大和守!」その時、後ろ少年がとびかかる。

怖ろしく、素早い動きだった。

だが、すでにすら怪しい男には、その動きでは無理だった。

襟元をつかまれ、足払いをかけられると、あっという間に倒されてしまう。

しかし、少年はまだあきらめない。

立原も刀を構えている。


「ははは、なんの真似か」

「宗晴様をお返しいただく」

「嫌だといったら」

「この剣をお見舞いする」

「やってみよ」

歴戦の勇士、立原の剣が襲う。

しかし、何事も無いように、無刀取り、この場合は真剣白刃取りで止めた。

「秘技、抜山蓋世ばつざんがいせい

何ということか!挟み込んだ刀ごと、立原を上空へと投げ飛ばす。

どうやっても、人間外の技がさく裂する。

あまりの力に、立原は刀を手放したが、後方へと投げられた。


立原、山中はあっけにとられていた。

おかしすぎる!

様々な戦場で戦ってきたが、この敵だけは、桁が違ったのである。


「どうかな、これで免許皆伝ではないですか」

男は別の方に話しかけていた。

「今のは?」そこには、年寄共がいた。

「だから、無刀取りを超える技でしょう」

「剣術か?」

老人たちが何か思案投げ首である。

「まあ、新陰流の免許だから、儂はどうでもよい」と年寄1。

「新当流は、くれないのですか」

「あんな技は、新当流にはない」


青い審議ランプがついている。

「保留」

「馬鹿な!」


「そもそも、なんで教えていない者に免許を与えんといかんのだ」と年寄2。

「技、全部できるからですよ」

「見て、まねてるだけだろう」

「まねるがまねぶ、まねぶが学ぶに変化したのです」

「意味が分からん、そもそも弟子入りを認めたことはないじゃろう」

「ええ!?」


すでに、この男は、剣理こそ理解していないが、動きだけは同じように動くことができるのだ。

そして、本気で動くと、ほとんどの人間よりはるかに強かったのである。


「お前は、出鱈目剣法を始めたらどうか」と年寄1。

「おい!爺ども」

「しかし、一宿一飯の恩というものもあるのは、事実」と年寄2。


すでに、尼子一党の主戦力は忘れられていた。

「しかし、」

「一代限りの免状ということで与えればよいのでないか」と壮年の坊主。

こちらの老人どもも適当なことを言い出す。


そのすきをついて、二人は逃げ始める。

彼らは、違う方法を考えて、君主候補を助けねばならないのである。


「とまれ!」

しかしその声で、彼ら二人はあゆみを止めてしまう。

何という、強制力。言外の力が作用しているようだ。

「話は終わっていないぞ」


固まる二人。

「動くなよ」

男は刀を投げた。

立原は死を覚悟した。

しかし、あろうことか、刀は鞘に吸い込まれた。

鯉口まで、納まるまではいかなかったが。


「勝久、出てまいれ、お前の家臣たちが来てくれたぞ」


「え?」

「お前たちが、尼子を盛り立てようとしてくれている忠臣か!」

「宗晴様か」

「今は還俗して、尼子勝久と名乗っているがな」

「殿!」二人は勝久の前で、ひれ伏した。


「立原久綱にございます」

「山中幸盛にございます」

「立原に山中、ありがとう、私は幸せ者だ」

三人は抱き合って泣いた。


しかし、免許皆伝は却下されたのである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る