第3話 夜明け
003 夜明け
悄然と馬に揺られる、元武田義信は、罪を許されて、家を
今後は、紀伊鈴木の重臣、鈴木大和守を父と思って仕えるように言い渡された。
さすがに、家同士の問題が残ることは許されないので、嫁とは離縁し、また、名前も、鈴木重信に改めることになった。
今後は武田の血筋を名乗ることを許されず、鈴木の陪臣の息子として生きよと命じられた。
同様に、
赤備え部隊の者たちも放逐と決まりぞろぞろと負け戦のように歩いていた。
彼らは、武田騎馬隊だが、勿論馬は与えてはくれなかったのだ。
勿論そうなるだろう、そして、特にそれは必要なかった。
彼らは、船で移動する必要があるため、馬までは載せられない。
重信と重昌どちらも甲斐出身は、駿河湾を眺める場所までやってきた。
彼らは、下手をすれば死んでいた。そして今まではそれでよいと考えていた。
だが、いま、海を見て、新たな何かをつかもうとしていた。
いかに自分が小さかったということである。
素晴らしい海が輝いていた。海は広かった。自分のなんと小さき事よ。
そして、沖には、異形の戦艦が在泊していたのである。
小早が数隻近づいてくる。
何といっても、ここは敵地?戦闘が発生する可能性すらあるのだ。
いまこの地は、誰が治めるかでもめている。
松平と今川、そして、この機に乗じて、武田が狙っていたのである。
それを止めるため、義信は焦り事件を起こしたのだが、今はもはや、義信の名すらなかった。
「若、新たな地で、再出発するのです」それは、守役のため、陰謀に加担した形になった、重臣飯富兵部。彼もまた名を失った。
「すまぬ、兵部」
彼らは、小早に分乗し、戦艦に搭乗した。
彼らは山国で育ったため、海上は初めてだった。
潮風が気持ちいいのだが、何かまとわりつく感じはなんともしがたい。
和船とは全くちがうのだが、その和船を知らない彼らのため違和感はない。
だが、大砲は圧倒的存在感があった。
「これは一体!」
「芝辻砲と呼ばれる青銅砲です」
「???」
「初めてでしょうからそんなものです。おそらく皆さんは淡路きゃんぷに行くので嫌でも、わかるようになるでしょう」
キャンプ淡路それは、海兵隊の聖地である。
訓練と洗脳を受ける拠点、立派な人殺しへと訓練されていく。
だが彼らは、おそらく馬の世話を中心にすることになる。
何れ、騎馬隊を率いて戦うことになる彼らは、まず自分の馬を見つけねばならない。
海兵隊が海に強いのは当たり前、だが、彼らは沖に出た瞬間から、酔いはじめ、淡路につく頃には、やつれ果てていた。
「陸がこんなに素晴らしいものだとは知りませなんだ」
「陸が揺れている」
兵部と重信(旧義信)は感想を吐露した。
彼らの身の処遇については、船上で説明されたが、覚えているかは不明である。
「まあ、いろいろとあったのですから、しばらくはここでゆっくりされるのがよいでしょう」
淡路は自然豊かで、気候も良い場所で、馬飼育施設や海兵隊の基地が存在した。
「儂らは、騎馬部隊、馬を見せていただきたい」馬を取り上げられたため、自分の存在価値を否定されたように強く感じているため、どうしても早く取り戻したいのである。
馬の世話は、諏訪賀一族が行っている。
武田の赤備えの誰かが、世話のできる人間がいれば部隊が充実することは間違いない。
当然、いるであろう。
「儂に合う馬がいればよいのだが」兵部の心配は、乗れる馬がいるかどうかのようだ。
平均的日本人よりも大きいようだが、こちらの馬は兵部の大きさ程度では、びくともしないに違いない。
「諏訪賀!案内してやってくれ」
「は」諏訪賀利一は、大男だった。
「何!」
「では参りましょう」自分よりも大きな男が案内してくれるようだが、何とこの大男の乗れる馬が存在するのか?
飯富兵部は、
馬はすぐそこにいた。
「何という!」
そう何という雄大な馬!がそこにいた。
体重500Kg程度のアラブ種の元祖である。
「これは、明(中国)から輸入されて、繁殖させているものになります。」
「何と!」
「体が大きいため、蹄鉄をつけねば爪が割れて、病気になりますので、注意が必要です。」
「これは!」
こうして、淡路の牧場を連れまわされた、赤備え達は、自分はここで再出発する決意を燃やし始めた。
彼らは、馬を何よりも大事にしていた。
いままでの馬も可愛かったが、いま思えば本当にかわいかったのだ。
これぞ、軍馬、いかにしてこれを使い熟すのか、それを問われているように感じたのである。
「よいか!我らは、いま自分の真価を問われている、我らが日乃本最強の騎馬軍団となるのだ!」そもそも猛将だった男に火がともった瞬間だった。
「それと、できれば、馬上からの射撃を行えるような部隊になってもらいたいがどうかな」
宿舎に帰ってきた彼らに、声をかける男。
「なんですと」
「馬はなかなかに気の弱い動物じゃからな、難しいとは思うが、機動射撃戦闘ができれば、戦術に幅ができるのではないかと考えておる」
「わかり申した、しかし鉄砲がなければ」
この瞬間も、銃は貴重品だった。
「そうじゃの、通常の種子島では、銃身が長いので、少し短めで作った方がよいかもしれん」
「軽くするならば、厚みも薄くする必要があるかもしれません」
「とすると、装薬も少なく、銃身も細めか?」
「いろいろと考える必要がありそうじゃな」
「はい、芝辻師匠と打ち合わせが必要でしょう」
男と副官望月、参謀総長戸次、竹中が相談を始める。
銃そのものをそろえることができないということはないらしい。
というか、特注品の銃の開発に話が向かっているところがおかしい人々であった。
とりあえず、鉄砲の射撃演習をしつつ馬の世話と繁殖の仕事を行うことになった。
銃はそのうちできるであろうとの答えだった。
こうして、猛将飯富兵部の暗雲は晴れたのだが、義信の暗雲はまだ晴れていなかった。
「重信、お前は沈んでいるかもしれないが、すでに儂の息子じゃ。」
「はい、義父上」しかし、重信の表情はさえない。
「まあ、お前の場合甲斐国主になる予定だったのだから、ある意味もったいないことだが、自分の成したことの責任は取らねばならん。本来ならば、戦場で敗れれば、死を覚悟せねばならん」
「はい」
「つまり、お前はすでに死んだも同じということよ」
「だが、まだ生きている。生まれ変わった者としていきてゆかねばならんのじゃ」
「・・・」
「まあ、そこでじゃ、儂にはたくさんの子がいるのじゃ、お前がやる気がないのならそれでもかまわん。しかし、兄としてのそなたには期待しておる」
「弟たちを紹介しようついてまいれ」
そこには、上から下までいろいろな子供がいた。
重信は30歳、一番の年上になる。
「よいか、一番最後に来たが、年は皆よりも上じゃ、皆兄に面倒を見てもらうのじゃ、良いな」
「はい!」
真田昌輝、吉弘鎮理、真田昌幸、本多忠勝、榊原康政、海野才蔵、可児才蔵、マキシム重牧、ソロモン重門、重雪、井伊直政、北畠具房、筒井順慶などがいた。皆、本当の子供のように世話を焼いていたのである。(一部本当の子供も含まれている)
「お前はこれだけの弟に囲まれておる、兄としての責務を果たすのだ」
義信はこれまで、武田嫡子として育てられてきた。
しかし、ここでは外様である。
だが、この弟群はすぐに、新しい兄になじむ。
そして、各々が凄まじい訓練の成果で、兄を圧倒する武技を身に着けていた。
兄として恥ずかしくないようにせねば、武田源氏の名を辱めぬように、努力せねばと思いはじめ、あっという間に自分も飲み込まれていた。
新しい家族、新しい兄弟。ここには、活気が満ちていた。
ほかにも、若い海兵隊、親のいない子供らも一緒に訓練し、一日を過ごすのである。
影を引きずるのは簡単だが、ここには、もっと悲惨な目に合ったものもいくらでもいる。
義信は、重信として、生きる決意を皆のエネルギーをもらって持つことできたのである。
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