第2話 廃嫡
002 廃嫡
彼の元の名を武田義信という。
1565年(永禄8年)10月に発生した甲斐の戦国大名・武田氏の内紛未遂事件の首謀者とされている。この事件で彼は、甲斐武田家の嫡子を廃嫡され、彼の家臣団が粛清されるなど武田家内部に大きな亀裂や影響を残し、後年における武田家衰退の原因のひとつになったといわれる事件が発生した。
彼は、事件の罪を問われ、領国の寺に
そして、今回、家を
そもそもの原因は桶狭間の合戦に始まる。
この戦いで、圧倒的有利と目されていた、今川義元が、尾張の一勢力の織田信長に討たれるという歴史的事件が発生した。
彼の嫁は、その今川義元の娘であった。
甲相駿同盟の誼のために、結婚していたのである。(甲斐武田、相模北条、駿河今川の三国同盟)
その義父の義元が討たれ、国元が混乱している中、今川家家臣の松平家が独立宣言。
海を求めて勢力を拡大を図る武田家、あろうことか、父親の信玄は、駿河攻めを決意する。
義信はさすがに、義に
かつて、自分の父がその父(祖父)にしたように、父親を放逐するしかないと、クーデターを計画するのだが、それはあえなく失敗したのである。
かくして、自分の側近たちは、逮捕され、処刑を待つのみだった。
そして、自分はさすがに、長子であり、嫡子であるため、考えを変えるよう寺に、謹慎させられていたのである。
だが、元来意思の強い性格故か、考えを変えることはできず、自刃して果てようと考えていたのであった。
すでに、彼は廃嫡され、跡継ぎは諏訪四郎勝頼に決まったのである。
それを聞いて、彼は自刃を決意をしたのである。
「もはや、これまでか」
1566年(永禄9年)になっていた。
甲斐武田の本拠地、
武田家家臣たちが居並ぶ中、その男はそれをまるで気にする風でもなく、その城の主の出座を待っていた。
山の神とも称される、武田信玄の事をである。
「それより、幸隆殿は、長男に家督を譲り、金鵄城に来てくださらんか」
「今、その話はまずいですぞ」
実をいうと、次男の昌輝がすでに、鈴木家陪臣になっていた。
今や、戦闘力はさておいても、経済力は日本を揺るがさんばかりの勢いがあった。
まあ、甲斐まで轟いているわけではなかったが。
「そなたが、西戎将軍鈴木殿か」
征夷大将軍であれば、東国武将は上座を譲らねばならない。
しかし、西戎将軍であるので、上座にはこの城の主の武田信玄が座ったのである。
男曰く、人の城に来ているのに上座では、座りにくいとのことであった。
「左様でござる、今般西戎将軍を拝命いたしました、鈴木大和守重當でございます」
「おめでとうござる」
「ありがとう存じます」
「それで、本日はいかなる用向きでござるか」
「そうですな、まずは、我が殿からの命でございますれば、西戎大将軍たる鈴木紀伊守重秀から武田殿にご挨拶申し上げます。つきましては、我が城代を努めます金鵄八咫烏城までご足労願いたい由にございます」
言葉は丁寧だが、簡単にいうと、将軍の座についたので挨拶にこいと言っているのである。
「左様ですか、しかし、東国では、戦乱は未だ治まらず、ご挨拶に参りたきところなれど、そう簡単に上洛することはできませぬ、ゆえに逢坂にも登城することかなわず、残念至極にござる」
言葉は違うが、西戎将軍とは何か、そんなものは知らんので、挨拶に行くことはできない。
そもそも、お前の管轄は西国であろう。と信玄は言ったのである。
「
言いつけてやる!といっているのである。
「まあ、それはおいておくとしまして」主命をそう簡単に置いておくことは問題である。
「例の取引についてでございます」男は黒い笑みをのぞかせるのであった。
「それは、無理筋というもの、嫡子というものがどのようなものか、武家ならば十分承知しておられるはず」
しかし、この男は本来武家ではなかった。かつて軍人だっただけなのだ。
「御心配はごもっとも、しかし、神かけて誓いましょう。そしてここで宣言しても結構です」
この男のいう神とは、どこの神なのかは不明である。
そもそも、ここに居並ぶ重臣たちも何の取引かは知らなかった。
「義信殿を某の息子とし、今後武田の嫡子争いを行わないことをお誓い申し上げる」
「なんだと!」居並ぶ重臣達から、声が上がる。
武田の元嫡子を外に出せばいずれお家騒動に発展する可能性が高い。
「だからここで宣言しているのです、もはや武田の跡継ぎは勝頼殿、皆さまもそう考えておられるであろう、出ていった者を気にする必要はございません」
「それに、某は、西戎将軍でござれば、東国に攻め入ることはござらぬ。ご安心くだされ」
いっている言葉のみ聞いていれば、そのような気もするが、よくよく考えれば、職名が変われば、やってくるかもしれないということに気づいた人間が何人いたか。
「わが武田になんの得がござろうか」
「そうですな、儂の息子にいただくのですから、結納の品をお持ちしております」
男がパンパンと手をたたくと、男の家臣が木の箱をもって入ってくる。
「種子島です、御覧くだされ」箱は5箱、計50丁である。
これだけで、2000貫の価値がある。
近ごろ、富に有名になりつつある、雑賀鉄砲である。
集弾率が違う、長寿命などの特徴があるのだが、彼らはそこまで知らない。
そして、それらは市販品、彼ら軍団の銃はそれらとかなり違っていた。
「どうですかな、しかし、表面上の問題だけではありませんぞ」
「どういうことですか」武田信玄が初めて口を開いた。
「鉄砲とは、弾と火薬があってこそ役立つのです」
「それで?」
「どちらから買われますかな」
それは、弾と火薬の購入先がどこなのかということである。
弾(鉛)、火薬(主原料の硝酸)は日本ではほとんど採れない。
商人から買い付けることになるが、それは堺の商人が卸していた。
少なくとも甲斐では。
博多辺りになれば独自ルートもあったであろうが、甲斐では、堺経由でしか買うことが難しかったのである。
「流通の保証をいただけるのか」
「少なくとも、親戚になるのですから、できるだけ面倒をみます」
「どうじゃ、幸隆」
「はい、鈴木様は面倒見の良いお方です」
息子二人を取られているが、いずれは自分も行きたいと考え始めていた幸隆。
彼の視点は別のところを見ていたのではあるが・・・。
息子からの手紙には、それが異次元の方法で金を儲けていることが端々から読み取れる。
彼らが、小さな面積を取り合うために戦っているが、それはいわば金のため、彼らは別の意味で戦いすらする必要がないのではないか?
自分もそんな世界に行けば、この厳しい世界から脱出できるのではないかと考え始めていたのである。
「とりあえず弾、一万発とその分の火薬もお付けしましょう」
それは、人身売買を行っているのではないのか?
いやいや、それは違う。人助けなのである。
このままでは、彼は切腹して果てるのだ。
「ところで、まだ
「うむ」
「武田の重臣が処断なされるなど、大変残念なことでございましょう、鉄砲50丁をお付けしましょう」
これで、鉄砲は100丁になった。
4000貫の価値がある。
「しかし」
「弾と火薬もお付けしましょう」
「・・・・」
「どうせ切腹させるのです、そもそもなかった者として考えれば、何ということもないでしょう」かなり何かがありそうな気がする。
「誓って、武田に仇なす所業はさせません、
「八咫烏大神?」
「はっはっはっ、そうです、我が神は八咫烏大神でございますれば」
信玄は心の中で首をひねっていた。八咫烏とは神なのか?
確か神の遣いだったような。
こうして、武田義信、飯富虎昌以下赤備えの部隊は、売り飛ばされることが決定した。
こうして、先ほどの部分へとつながるのである。
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