八咫烏血風戦記Ⅱ 続九十九後伝 〇〇編

九十九@月光の提督・連載中

第1話 美しい女

001 美しい女


1566年(永禄9年)

西戎大将軍から、西国大名諸家に召集状が届く。

それは、今般、帝から西戎大将軍、西戎将軍に命じられた鈴木家の城に参上し、挨拶をせよという命令であった。

そして、それは、毛利家当主、毛利隆元にも届いたのである。

彼は、数年前の事を思い起こす。

そして、戦慄する。


・・・・

1563年(永禄6年)の夏、蝉の鳴き声がうるさくなり始めたころの事である。


金鵄八咫烏城内に、一人の女が現れた。

それは、俺が見てもというか、俺が見ると大層な美人であった。

いわゆる、アイドル並みの美しさである。

なんでも、金鵄八咫烏城の見学に来たのだという。

そのころの俺は、すでに正室、側室が一人おり、息子娘も5人もいる。

という大変立派な父親であったのだ。


しかし、なぜ門番もいるはずなのに、この娘は、城の中をうろついているのか?

きっと、ウィンク一つで突破してきたに違いない。

俺なら、通してしまうだろう。

それほどの破壊力を持っていたのである。

「どうしたのじゃ、娘よ、道に迷うたのか、儂が案内して遣わそう」

下心満点の誘いを行う、破廉恥な男。これがここの城代とは嘆かわしい。


「はい、少々道に迷うてしまいました」

城の中で迷うとは、なんとも可笑しな通行人だ。

入ることなどできぬというのに。

「そうか、体調がよくないのではないか?少し儂の部屋で休んではいかがか?」

こんな危険なおっさんについていくはずがあろうか。


「ええ、少し休ませていただこうかしら」上目遣いがヤバい。

「そうかそうか、では参ろうぞ」一体この男はどこへ行く気やら。


城には、かなりの数の部屋がある。

人のいない部屋も数多くあるのである。


男はその部屋の一つにこの美しい女を誘うことを決意する。

疑うことを知らぬ馬鹿な男。そして、美しい女。

女は長い髪をファサリと振るった。

その髪の中できらりと何かが光る。

ブスブスと何かが天井に刺さる。

長い針であった。

「危ないではないか、それに天井に傷がつく、襖だけは勘弁してほしい」

確実に自信のあった攻撃を何事もなくかわした男。

「ささ、行こうぞ」


「千代、おふざけが過ぎるぞ」そこには、副官たる望月氏が突然出現していた。

「千代どのか」

「殿、いかに殿でも、娘を簡単にやるわけにはいきませんぞ」

「なんだと!千代殿は儂の嫁になるために、はるばるやってきたのに違いない、貴様はそんなこともわからんのか」

「問答無用」

彼女は城下で暮らしていたので、はるばるやってきたわけでない。


望月の容赦ない分銅が、男を襲うがこれもまた人間離れした動きで回避する。

頭に当たれば、脳みそが飛びちる程度に力は入っている。


さすがに人外の戦いをいつまでもしているわけにもいかず。

とりあえず、武器を置く二人。


「では、殿。本来の課題に入らねばなりませんぞ」と戸次道雪が登場した。

「うむ」


彼女が呼び出されたのは、くのいちの育成についてである。

とにかく、いかな時代でも、男は女に弱い者、この時代とて、それは同じであった。

そして、その弱点を突くべくくのいちの部隊を育成することにしたのである。

そして、その隊長たるべきものがこの望月出雲の娘ということになったのである。


彼女は俺から見るとまさに、アイドルさながらの美しさである。

だが、この時代では、そこまでではないらしい。

時代の流れにそぐっていないようだ。

早く表れ過ぎた彗星なのだ。

何を言っているか意味不明である。


「しかし、千代どのを任務に出すなど言語同断、これは人選を変えるべし」

「いや、あんた自分の手元に置いておきたいだけなのでは」

「そうではないぞ、義父上」

「誰が、義父上じゃ」と望月。


「その点は、某にお任せあれ!」

誰か勘定奉行になにか頼んだのか?

男は左右に首を振り見回す。


一人の男が立っていた。

「侵入者か、者ども出会え~」

今日の男は、美女の出現により一味も二味もバグっていた。


「段蔵か」と望月。

「は、義父上」と段蔵。

「死ね!」高速の剣が、段蔵を襲う。

同時に分銅も段蔵を襲う。


だが、その望月の分銅と何物も真っ二つにする男の必殺の剣は段蔵をすり抜けた。

「冗談でござる」

「わかっておるぞ、段蔵とやら、儂も冗談だったのじゃ」

避けねば、縦割りで真っ二つにする程度の威力はあった。

「うむ、少してがすべったようじゃ」その分銅もまさに、顔に穴をあけるほどの威力があったことは内緒である。


おそらく通常の武士ならば、二人は確実にあの世にいったことは間違いない。

これぞ、最強の忍びといわれた加藤段蔵である。

いわゆる『飛び加藤』という忍びであった。


今回の任務に際し、千代が危険になった場合は、この加藤が助け出す算段になっている。

親ばかの望月が配慮したのである。加藤は甲賀者ではない。


「今回の任務は加藤のみでやらせればどうか」

「いえ、ここに置いておくのはもっと危険です」

明らかに、いつもよりがいるからである。


何とかせねば、娘の身に危険が及ぶ。望月は早速、犬姫と未来にご注進に及ぶのである。


今回の彼らの任務とは、毛利家に対する工作である。

以前、小早川水軍に大打撃を与えた男がなぜ今頃に、このような工作をおこなおうとしているのか?

簡単にいうと、毛利元就が邪魔だったのである。

謀神といわれる毛利元就を何とかしたかったのである。

そこで、考えた工作とは?


・・・・

この年、毛利家では大変な事態が発生することになる。

尼子氏への攻撃を行うために、毛利隆元は7月12日、多治比猿掛城を出発し、安芸の佐々部に到着した。宿舎の蓮華寺に留まり、ここで尼子攻めに参加するための準備を行った。


8月3日晩、隆元は毛利氏傘下の備後国人である和智誠春の宿所に招かれ、饗応を受けることになる。


「ごめんください」そこに女が現れたのである。

その女こそ、望月千代であった。

「貴様らはなんだ!」

勿論、戦に向かう準備をしているため、怪しいものに目を光らせている。

某ゲームでも現実でも、暗殺は当たり前に行われているのである。

「鈴木家筆頭家老、鈴木九十九様の副官の娘の千代でございます」

驚きの自白であった。

かつて、毛利家の傘下小早川水軍と九十九の海兵隊との間で戦闘があり多数の小早川水軍が撃沈された事実が存在した。


「敵襲!」門衛が叫ぶ。

だが、その口はふさがれていた。

加藤が後ろから首を絞めていた。


彼らはまんまと入口から堂々と宿舎に入ることができた。

「和智さまからの遣いで参りました」

「そうか、よく来てくれたな」

それは、今日の主役毛利隆元だった。

「はい、では参りましょう」

「うむ、しばしお待ちくだされ、それにしても大層な美人であるな」

この世界での美人感は少し違うのだが、隆元は大変気に行ったようだ。

おそらくその瞬間、あの男なら隆元を消せと命令していたはずである。


「しかし、本当に大丈夫なのですか?」隆元の家来、赤川何某は、不穏な気配を感じ取っていた。

「何がじゃ、和智は味方になってから長い。何をそんなに心配しているのだ」

この会話は、千代に聞かれぬようにされている。


毛利隆元と家臣たちは、千代たちに先導されて、供応の場所にやってきた。

「毛利の殿様がおいでなさいましたよ」

「うむ、わかった。」


広間(板張りだが、座る部分のみ畳)に通される。

和智誠春は、「本日は、侍女まで連れてこられたか」という。

「?」

「殿のお世話はわたくしでないとできませぬ故」なんと、千代が答える。

「そうですか、さすがは毛利様」少しあきれ気味だった。

愛妾かなにかと勘違いしているのだった。


「殿、本日は、少し楽しませたき児戯ちぎがございます」

千代は隆元に囁いた。

「貴公らは何者じゃ」

「趣向は、料理の入れ替えです」

「!」

「殿の食べる料理はすべて、和智様のものとすり替えます」

「!!」

「どうなるのかは、お楽しみですね」と千代が怪しい笑顔でほほ笑んだ。


翌日、和智誠春が、突然の病を発症し、なくなってしまう。

食あたりかもしれないということだった。


「なんということだ」

「突然の病だったそうですね、本当に怖いですね」と千代。

「うむ」と加藤が頷く。


「我々は、鈴木大和守の手の者でございますれば、この絆をお忘れなく」

「それでは、御免」

加藤もそして女も、数メートルも先に行くと陽炎のように消えていったのである。


「恐るべきは鈴木大和か」

「殿、和智殿が、病にて身罷みまかられたよしにござる」

赤川何某が走ってやってくる。



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