第26話 協力プレー

「!?GUA……」


一線に振るった刃は、アンデッドの横っ腹を切り裂き、血液ではない黒い煙のようなものを代わりに噴出させる。


「さすがですリューキ様! 正面じゃなくてわざわざ横から強襲するあたりがいかにもリューキ様らしいです!」


「ミユキ、それは褒めてるのか?」


「もちろんですよ!」


楽しそうにそういうミユキに対し、俺はどこか素直に喜べずによろけるアンデッドに対し剣を構える。


「AAAaAA……」


「さすがに、横っ腹斬られたぐらいじゃ倒れてくれないか」


「ハイアンデッドは、アンデッドが強い魔力を浴び続け蓄積されて一つ高位の存在になったものです! 魔力があり続ける限り、傷を延々と修復していきます……」


「倒す方法は?」


「修復できないぐらい、一気にDEATH!!」


なるほど、エリシアが時間を稼げといった理由が分かり、俺は再度迫りくるアンデッドに対し切りかかる。


「了解だ!」


火力に関して言えば、ドラゴンを握りつぶしたあの魔法を見れば心配など必要はない。


ただ、エリシアを信じて彼女を守ればいいだけだ。


「AAAAAAAAAAAAA!」


怒声を上げながら、今度は標的を俺に変えて走り寄る。


動きこそ鈍重であるが。


「げっ!?」


その刃の一撃は重く、何よりも斬ってもひるまないその突進に、次第に受けることが困難になる。


これが……殺し合い。


いかに魔法の力で戦えるようになったからとはいえ、命のやり取りは俺の精神をガリガリと摩耗させていく。


気が狂いそうなほどだ。


【AAA!!】


不意に、アンデッドが距離を取る。


「リューキ様!」


ステータスを見ると、選択されているのは冒涜的な触手。


効果のほどは知らないが、ろくなスキルじゃないことは確かだろう。


「ちぃっ!」


故に、正直怖いがエリシアを狙わせるわけにはいかないため、俺は真正面に走ってそのスキルを妨害する。


「ああああああああああああああああ!」


スキルが発動されると、同時にアンデッドの体から黒い霧が放たれ、その霧が触手のようになって俺へと走る。


その光景は、まるで遺体から寄生虫が這い出ているようで気持ち悪い。


「狙いは……リューキ様とエリシアさんです!」


「させるかよ!」


ミユキの言葉に、俺はアンデッドのもとまで駆け寄り、すぐさま戦闘スキルを発動する。


【一閃!!】


放つは、渾身の横一文字。


スキルにより放たれた一閃は、ただの一撃とは異なり、すんなりとアンデッドの横腹へと食い込むと。


「だあああああああああああああああああああ!」


アンデッドの体を両断する。


【GUU!】


「おぉ!? すげえ!」


体勢を崩したアンデッド……やはり両断ともなると損傷が激しいためか、触手の形をしていた黒い霧は、一斉に切り口へと集まり、分かたれた体をつなぎ合わせ始める。


「スキル、キャンセルされました……!」


両断されたハイアンデッドは、一度動きを止め、体の修復にその黒い霧を集中させ。


同時に。


「リューキ! 離れて!」


その隙を狙っていたのか、ミユキの声がダンスホール内に響き、俺は反射的に後ろへと下がると。


【ジャイアントグラップ!】


レッドドラゴンを倒した時と全く同じ、巨大な巨人の腕が地面より生え出でて、ハイアンデッドを握りつぶす。


【GUAAAAAAAAAAA!!】


絶叫に近い苦悶の怨嗟の声が響き渡り、何かが砕け握りつぶされるような鈍い音と同時に、巨大な拳の指の間から黒い霧のようなものが天井に向かって立ち上り、闇と同化をする。


「やりましたよ!リューキ様!」


よろこぶミユキは、俺の周りを飛び回り。


「リューキ! 無事!?」


「なんとかなぁ……」


エリシアは様子を見に来るようにこちらへと走り寄って来てペタペタと俺の頬や腕を触り始める。


「なっ!? なっ、何を!?」


「怪我とかしてない? 大丈夫?」


「だ、大丈夫だよ、お前の魔法のおかげでな」


「そう……良かった。 自信無さげだったから心配したんだけど……流石はナイトね! よしよし!」


エリシアは嬉しそうに飛び跳ね、同時に俺の頭を撫でてくれる。


「あっ……う……えと……」


人に褒められるのなんて……いつ以来だろうか。


笑顔で頭を撫でるエリシアに、俺は何も言葉を紡ぐことができず、ただしどろもどろに音を漏らして目を白黒させる。


考えても見てほしい、エルフの少女に心配され頭を撫でられ、あまつさえ褒められたのだ。


控えめに言って最高であり……俺の心の中は、一瞬にして色々なもので満たされる。


「まさか、最初のダンジョンでいきなりボスを倒せるなんてね」


しかし、こんなこと何でもないといったように、当のエリシアは俺の頭を撫でるのをやめると自らが仕留めた獲物を感慨深く見上げてそう頷く。


高々と掲げられた巨人の腕は、誇らしげに堂々と天井に向かって伸び、未だに黒い霧が指の隙間から漏れ出している。


「いかにハイアンデッドの欠損修復能力が高いとはいえ……これだけの魔法を受ければいちころころりんスットントンのようですね」


「だな……また何かが起こるかもしれないし……そうなる前に探索を終了させちまおう……」


「リューキに賛成……」


そういうことになり、俺たちはダンスホールの奥、玉座のある方へと向かい巨腕に背を向ける……。


と。


【GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】


絶叫の様な声が響き、同時に巨腕の人差し指がへし折れ崩れる。

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