第25話 蠱毒の王
「あんたが弱腰でどうするってのよ?」
「いや、だから俺は一般村人-程度の戦闘力しか持たないんだよ」
いきなりボスなんて言われたら見てみろほら……膝がマナーモードになっている。
「大丈夫よ安心して! 1分ぐらい時間稼いでもらえれば、ドラゴンみたく私がササッと魔法で倒してあげるから!」
「その1分が長いんだよ!! 10秒ももたないわ!」
「じゃあ、あの霧に飛び込むの?」
エリシアの呆れたような言葉に背後を見やると、明らかに触れただけでもひどい目にあいそうな不気味な靄を作り出している扉が見える。
「……無理」
「でしょう? だったらさっさと腹を決めてよね?」
「そうですよリューキ様、どうせあの敵倒さないとここから出られないんですから」
「うぐぐ」
「守ってくれるんでしょう?」
「!!……」
その瞳は、まるで俺が負けるなど微塵も思っていないような信頼。
その顔は狡い……本当は泣いてこの場から逃げ出したいというのに、まるで魔法のように俺の目を真っ直ぐに敵へと向けさせてしまうのだから。
今度は目前に迫るアンデッドを見ると刃を振り回して元気満々に俺を抹殺しようとゆっくりと距離を詰めてくる。
心なしか嬉しそうだ。
「ステータス……」
幸い、情報を探るだけの時間はありそうなので、俺は慌てて敵の情報を読み取ると。
真っ赤な視界に、敵のステータス画面が現れる。
【ハイアンデッド】💀 LV5 NAMED 蟲毒の王
筋力 4 体力14 速度 3 信仰 0 幸運 2
スキル/ 剣戟C 鷲掴みB 毒の吐息D 冒涜の触手C 王権特権B
レベル5……。
現在俺のレベルは1であり、エリシアはレベル3だ……。
先ほど倒した剣士たちも確かにレベル5であったが、こちらのボスには髑髏マークがついているため、恐らくはただのレベル5の人間とは一線を画す何かを有しているということだろう。
冷静になったうえで考えてみても正直まずい。
人間であれば、虚を突くことができるし、はったりをかますこともできるだろう。
だが相手が何考えているかわからない木乃伊である場合そのすべてが通用しない実力勝負となる。
はっきり言ってそうなれば俺に勝ち目はない。
「エリシア、やっぱりあのアンデッド相手にこのままじゃ一分はきつそうなんですが」
「大丈夫よ……アンタが戦うって決めてくれれば、私にだって考えくらいあるわ……信じてくれる?」
「一番いいのを頼む……」
「了解!」
そう言うと、エリシアは俺の隣を駆け抜けて、一直線にアンデッドへと走っていく。
「っはぁ!?」
「エリシアさん! 何を!」
走るエリシアは迷いなく、しかし魔法を詠唱することもなくアンデッドへと走っていき。
アンデッドはアンデッドでその行動をいぶかしむことも警戒する様子もなく。
機械のように近づくエリシアに対して剣を振り被り……両断しようと振り下ろすが。
「これでも……喰らってなさいっての!」
エリシアは胸元から丸められた紙の様なものを取り出し、敵へと放る。
【バインド!】
紐がほどけ、開いた紙は光り輝き、同時に触手の様なものが這い出でてアンデッドへと絡みつく。
「おぉ!」
黒い触手はまるで生きているかのようにアンデッドへと幾重にも絡みつき、ぶちぶちと引きちぎられながらも必死になってアンデッドを食い止めている。
「やった!」
俺は思わずそうエリシアに対して叫ぶが。
「まだよ! 初級……第一階位魔法だもん、二十秒くらいしか押さえておけない……私達じゃ、どんな攻撃を仕掛けても仕留めきれないわ」
「まじか!? だったらどうするんだよ」
「だから残りの時間を稼げるように! アンタに戦ってもらうのよリューキ!」
「はぁ!? だから俺は……」
抗議の言葉よりも早く、ミユキは一度アンデッドから離れると、杖を俺に構えて詠唱を始める。
【其の力は英雄の移し……脆弱を盤石に、弱者を強者に……その英雄譚、今ここに継承し継続せん!】
【
不意に、杖の先端から魔法陣の様なものが現れ、同時に中から幽霊のようなものが俺に対し一直線に飛び出し掴みかかってくる。
めっちゃ怖い!?
「ぎゃあああぁ! ななな!? なんぞこ……うっぅふ!?」
逃げるよりも早く、その幽霊は俺の体の中に潜り込むと。
『ステータス異状・憑依を検知しました〗
ミユキの声が頭の中に響き渡る。
「ひょ、憑依!?」
「英雄の歌は、一時的に英雄の魂を召喚して憑依させ、戦闘スキルと戦闘能力にバフをかける第六階位の魔法です! 本来であれば……レベル3の冒険者では扱うことができる様な代物ではないのですが……」
「要するに……」
俺はふと自分のステータスを確認すると。
【リューキ】LV1 職業 NEET 称号 竜狩り
筋力 6+2
体力 5+5
信仰 8-3
敏捷 10+2
運 1+0
【保有スキル】スキルグラップルLV1 戯言LV3【憑依分】剣技B 受け流しB 鋼鉄の体C 【戦闘スキル】 一閃
なるほど、自分のステータスにこうして憑依分の力が加算されるってことだな……。
レベル1なのは変わらないが、このステータスならば……。
俺は蟲毒の王と銘打たれたアンデッドに視線を戻す。
ステータス画面は赤から黄色へと変色していた。
これならば行けるということだ。
「……よっし!!行くぜ!」
憑依であるため、スキルグラップルとは異なり時間制限はないようだ。
これなら。
【AAAA―――――!!】
全ての触手を引きちぎり、アンデッドは雄たけびを上げながら自らの楽しみを邪魔したエリシアへと剣を振りかぶり切りかかる。
だが。
「おおおおおりゃあぁ!」
上段からの振り下ろしにより、俺はエリシアしか見ていないアンデッドを真横から強襲する。
「!?GUA……」
一線に振るった刃は、アンデッドの横っ腹を切り裂き、血液ではない黒い煙のようなものを代わりに噴出させた。
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