第24話 ダンジョンのボス

「……すごいな、ここ」


ダンジョンとは思えないほどの広大な空間……舞踏会場のように広く殺風景な場所が現れる。


さながらダンスホールのようなその場所は、不思議と明るく。


頭上を見上げると何やら光を発する水晶のようなものが天井に星のようにこびりついている。


まるで、満点の星空を切り取って天井に貼り付けたような光景に俺たちは息をのみ。


次に、前に続く道を見る。


ダンスホールの先には階段があった。


だが階段といっても、上の階層に向かうための階段ではなく。


途中で段差は終わっており、その先には一つ、玉座のような仰々しい椅子が置いてある。


簡単に言ってしまえばこの階段は上るためではなく、その人間の位の高さを表すための階段である。


バカと煙と偉いやつは高い所に上るというが。


……その玉座には、一人のボロボロの人間が座ったまま息絶えており、その両脇には、背中に剣の刺さった騎士が二人倒れていた。


ここで何があったのかはわからない……だがなんとなくだが、俺はその騎士二人が王に刺されて死んだ……そんな気がした。


「死体を見ても驚きませんね……リューキ様」


「驚いてはいるが……あそこまで木乃伊化してればな」


VRで出てくるゾンビの方がまだ迫力があるというものだ……気分の悪さは覚えるが。


「ここは舞踏会の会場だったのかしら」


「どうやら、灰被シンデレラりを待ち続けて、埃かぶっちまったと言ったところか?」


「うまくないですよリューキ様」


「悪かったな」


「灰被り?」


「コッチの世界のおとぎ話の話」


「おとぎ話って顔じゃないでしょうに」


「ほっとけ」


苦笑を漏らすエリシアにそう噛み付きながら、俺たちはダンスホールを歩いていき、木乃伊の元へと向かう。


……俺たち近づくたびに孤独な王の持つ権力の虚しさが、一つ、また一つこの踊り手のいないダンスホールに響く。


「民無き王はただの愚者かぁ……きっとこのことね」


「格言か?」


「いいえ、父がよく言っていた言葉よ。 王がいるから民がいるんじゃない……民がいるから、王がいる」


「随分といいこと言うじゃないか」


「ええ、尊敬してる」


その表情はどこか昔を思い出すように嬉しそうで、どこか誇らしげだ。


よほどできた親父さんなのだろう……。


少しだけ、うらやましく思いながら、俺はあたりを見回す。


トラップも、依然敵の反応もない。


「……これだけ広い部屋が用意してあるというのに、ボスの一つもいないとは。随分と寂しい所ですねぇ」


「出てきたら出てきたで速攻で逃げるけどな」


「……とりあえず攻略された後というのは本当の様ね、しかもあの玉座にいるやつの干からび具合から見て結構時間が経ってるわ」


「まぁ、それでも手がかりは残ってるかもしれない……」


「そうね……とりあえず、あの木乃伊を」


調べましょう……と恐らく言おうとしたエリシアの言葉が、乾いた木が割れる様な音に阻害される。


「!?」


視界に赤い影が映り、同時に敵対している存在の登場を俺に知らせる。


目を向けると、そこには倒れた騎士から剣を引き抜いている木乃伊がいた。


「アンデッド……」


エリシアのつぶやいた言葉に、俺はその存在を理解し……。


【―――――――――――!】



同時に背後で何か聞いたことのないような異様な音がし、振り返ると扉の部分に白い霧のようなものがかかっている。


「リューキ様! 時空断裂虚数魔法により、現在位置の空間座標が多次元屈折化してしまい……現在の世界線から約1、62……」


「何言ってるかわかんねえ! 15文字にまとめると!?」


「この部屋から出られませーん!!」


まぁ、目前に迫るものと、背後の様子を見ればあれがどういうものかは考えるまでもないだろうが、俺はとりあえずエリシアの前に出て剣を構える。


「リューキ」


「なんだエリシア」


「……お望みのボスよ? どう料理する?」


にやりとエリシアは不敵な笑みを浮かべ、戦う気満々に杖を構えるが。


「正直逃げたい」


「弱腰か!?」


杖の硬い感触が、俺の後頭部を小突いた。

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