第23話 停止したダンジョン
絶望に息をのみ、顔面から血の気が一気に引く。
罠を踏んでしまった……。
床に設置されたスイッチ型のトラップ。
お決まりなのは串刺し、もしくは落し穴だが。
どちらにせよこの俺のレベル一状態のステータスでかかれば……確実に死ぬ!?
落し穴ならまだ浮遊があるから大丈夫かもしれないが……下に針があるタイプだったらどちらにせよアウトだ。
何がまずいって……エリシアが隣にいることだ。
このままだと、エリシアが巻き込まれてしまう。
「っ……離れろ!!」
とっさに俺はエリシアを突き飛ばし、衝撃に備える。
「キャッ」
とっさであったため、力が思ったよりこもってしまい、エリシアは突然突き飛ばされ尻餅をつく。
だが、よろけてくれたおかげで俺から十分に距離を離すことができた。
俺が死ぬのは変わらないが……しかし、これで被害は最小限に抑えることができたはず。
後は、歯を食いしばって痛みに耐えるだけ……。
「え゛ん゛!」
歯を食いしばってしまったため、変な声が出てしまったが仕方がないだろう。
だが。
…………………………………………………。
「あれ?」
足元にあるスイッチは確かに踏んだのだが……肝心の罠が待てど暮らせど発生しない。
一体どういうことかと俺は足元を見るも、間違いなく足元にスイッチはある。
つまりは、どうやら不発に終わったらしい……。
「どゆこと?」
「ごめんなさいリューキ様……えっとですね。 さっき言おうとしたことの続きなんですが……その、このダンジョン……罠が全部停止してしまっています」
「停止……?」
「ええ、なので、スイッチを踏んでも問題は……」
「あ、そうなの」
ひとまず、死ぬことはないという現実に俺は安堵のため息を漏らし。
「!!?」
同時にすぐ後ろから漏れ出す殺気に、先ほど突き飛ばした少女の存在を思い出し隣を見やると。
「……痛い♪」
笑顔でこちらをにらみつける少女の姿がそこにはあった。
これは殺られる。
「………す……すみませんでした」
命の危険を感じた俺は、とりあえず深々と額を大地につけ土下座をした。
これが俺の、初めて(の土下座)であった。
◇
「それで? 罠が停止してるってどういうことなの?」
「言葉の通りですエリシアさん。 ダンジョンの罠を作動させている動力が切られています。 なので、罠はあり続けていますが、再度動力に魔力を送り込まなければ、罠は起動しません」
「まぁ、そうなると誰かが先にこのダンジョンに入って動力を止めたってことだ…」
「ちょっと!? それって……心臓はもう他の誰かにとられちゃったってことなの?」
よくある話だ、ピラミッドとかもそうであるが、宝を求めて入っても、墓泥棒に全てを持っていかれているという……そんな話はどこらでも転がっている。
だが……。
「……いや、そこまでは最奥に行ってみなければ分かりません」
確かに、もう持ち出されてしまっている可能性が高いが、この目で確認しなければ何も始まらない。
宝が盗まれてしまっている宝探し程むなしく悲しいものはないだろうが。
「少なくとも、誰かが持ち出していたとしても、その場所まで行かなきゃ手がかりも見つからないだろう?」
「……別に、探索に意味がないとは言ってないけど」
「ポジティブに行きましょうポジティブに、少なくともこのダンジョンが踏破されているのなら、今回のダンジョン探索は思ったよりも順調に進むということです!」
「だからそんなに落ち込んでないってば……もう、ありがとう」
ミユキは慌ててエリシアをフォローするようにそういい、エリシアは苦笑を漏らしてミユキに礼を言い、杖を構えなおす。
「出鼻を二度くじかれて、落ち込むかと思ったが……」
「あんたが言ったことでしょう? 何事も行ってみてやってみなきゃ始まらない……でしょ?」
「……あぁ、おっしゃる通りだ」
エリシアはしてやったりという表情で俺にウインクを飛ばし、見事にしてやられた俺は後頭部を掻いて悔しがるふりをする。
「……もお二人とも、罠がなくなって脅威が減ったのは確かですけれども気は抜かないでくださいよ? 全部が停止したとは限らないんですから!」
「大丈夫だ……俺も警戒はしているよミユキ」
「ならいいんですけれども」
まだどこか心配だと言わんばかりに、ミユキは俺の頭の上に寝そべり、ぺしりと額を叩く。
気合を入れたつもりなのだろうが、なんとなくほほえましくて口元が緩む。
「ほら、時間は有限なんだから……先に進みましょう」
「おう……」
剣を握り、俺は一本道のダンジョン探索を再開する。
罠がないと分かると不思議と心は軽くなるもので、一本道という単純な構造から、前方だけを注意すればいいので、ダンジョンを進む速度は格段に速くなる。
もちろん警戒を怠っているわけではなく、所々で散見されるスイッチや感圧版には、五色石で目印をつけて踏まないように気を付けて進んでいる。
それゆえに、先の罠以外の罠は踏んではいない、停止していたとしても、ダンジョンには万が一という言葉はないからだ、何が起こってもおかしくない、少しもたつくのと死ぬのどちらがいいかである。
だがそれでも、心の持ちようが変われば探索速度も変わるようで、歩幅や歩く速度は格段に速くなっており……。
「ありゃ……どうやらこのエリアは踏破といったところですね」
気が付けば、エリア最奥まで到達をしてしまっており、次のエリアへと進むための大扉が目の前に現れる。
「ちょっと、扉を調べるわね……危ないかもしれないし」
得に周りには何もなく、時間も十分に残っているため、エリシアは扉の調査を始める。
そのご自慢の耳を扉につけて、隣の部屋の様子を窺ったり、ノックをして罠がないかを確認を始める。
「しかし罠こそあれど、敵も宝も存在しなかったな」
「建物のつくりから見るに、ダンジョン……というよりは神殿……墓をイメージしたつくりなのだろう。
「……こんな建物を魔力だけで作りあげるのですから、心臓というのがどれだけの魔力を有する願望機であるかがうかがえますね」
「どういう仕組みなんだよそれ……」
「モノというのは多かれ少なかれ人の思いに触れて生み出されるものです。 ダンジョンというのは、その思念が反映されて作られやすいんですよ……。 その思念の持ち主の人生であったり、思い出のある場所、空間を、込められた魔力を使って異界化し作り上げる。 いうなれば、ものに宿った持ち主の世界を具現化する……といったところです。力が弱ければ、小屋みたいなものしか作れませんし、大きければこの通り、自分の神殿建てたりすることもできます」
「魔王の心臓ということは、これはじゃあ、魔王が思い描いた……自分の墓ということなのか?」
「そこまでは分かりかねますが、魔王に関連する何か……なのでしょうね」
「……特に仕掛けや罠はないみたいだし、隣の部屋も敵がいたりはしなさそうよ?」
不意に、探索を終えたエリシアは俺たちにそう報告をし、話はいったんここで終了となる。
「そうか……じゃあまだ時間もあるし、進むか」
「ええ、開けるから手伝って」
「おう」
頷くエリシアと共に二人で石の扉を押して開く。
あまり力は必要なかったが、石の扉は何やら大げさな轟音を立て、ゆっくりと俺たちの侵入を許可してくれる。
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