第22話 あ、死んだ
「……とりあえず、この魔法陣は持って帰って検証に使いましょう……写しとはいえ何かの役に立つはずよ。紙のストックはあるし、こうすれば……」
「?」
そう言うとエリシアは紙と紙を手でもって、つなぎ合わせる様な仕草をすると。
「くっついた……」
まるで粘土のように、紙はくっつき、あたかももともと一枚の地図であったかのようになる。
「すげぇ」
「ふふっ、スライムのエキスと樹脂を組み合わせて作った特別性よ……」
驚く俺に対し、エリシアはそう自慢げに言うと、祭壇の上に紙を広げて多い被せる。
「まさか、鉛筆使ってそれで写すわけじゃないよな?」
「まさか、言ったでしょ。 この紙は、スライムのエキスが混ぜ込んであるのよ、だから」
エリシアはそういうと、水筒のようなものを取り出し、ばしゃりと紙に書ける。
「おわっ!? 何して……」
「まぁ見てて」
にこりと笑うエリシア。
すると、水をかけられた紙は、なにやらふやけ……そして膨らんでいく。
「これは?」
邪魔にならないよう、端の方を紙でつついてみるとふにゃりと沈んだ。
「あ、もしかしてこれ……」
感触で解る。
これ、紙粘土だ……水っぽくて緩い紙粘土。
「そういうこと、スライムのエキスと紙を混ぜ合わせると粘土みたいになるのよ。乾けば紙に戻るし、そこらの粘土や紙と違って耐久力も優れているだからこうしてふやかして……ちょっと松明貸して」
「はいよ」
十秒ほど待ったのち、エリシアは俺の手からたいまつを受け取ると、紙粘土にそっと近づける。
と。
炎を忌避しているかのように、火の近づけられた場所から乾いていき、逃げるように祭壇の下へと水がぽたぽたと落ちていく。
当然水気を吐き出した紙粘土はただの紙に戻っている。
「……どういうことだこれ?」
「スライムのエキスというのは、炎や熱を感知すると自動的に離れようとする特性と、触れた水を自分のエキスに還元する力を持っているんですよ」
「な、なるほど、だから今炎を近づけたら、水気という水気が飛んでいったと」
「そういうことです」
不思議なこともあるもんだと感心をしながら、俺はエリシアの作業を眺めていると、エリシアは満足げに多い被せた紙をはがすと。
そこには、しっかりと凹凸により、祭壇の文字が写された紙があった。
「……版画と違って、ちゃんとくぼみの部分も再現できるんだな」
「スライムは隙間もしっかりと余すことなくもぐりこむからね……粘土と違って上から押しこまなくてもこの通りなの。便利でしょ?」
「あぁ、とりあえずここはもう大丈夫ということだ」
「そうね、奥に進みましょう。 この祭壇があるということは、間違いなくあたりということだろうし」
今度は紙を丁寧に折りたたむと、バッグの中にしまい、松明を俺に渡してくる。
その瞳には安堵と、希望を見出したような表情。
まだダンジョンの全容、それに目的の心臓の情報すらないが……。
それでも確実に一歩前へと進んだことをエリシアは実感したようだ。
「では時間はまだ残されていますので、奥に進みましょうか。しばらくは一本道が続きますし、欲を言えば次のエリアの探索ぐらいはしたいですね」
「だな……だが一本道ということは、それだけ罠が仕掛けられている可能性も高い。 あまりにも多いようならもう引き返したほうが絶対にいいが……」
そう言いながらも、俺は足元に注意を払いながら前へと進む、万が一にも足元の注意をおろそかにして、罠を踏むなんて愚を起こしてはならない。
「んー、目視で確認できるほど単純な罠は今のところないですねぇ、というよりも……」
「というよりも?」
「あ、リューキ頭危ないわよ、蜘蛛の巣」
「おっと、サンキューエリシ……」
なにやら含みのある言い方をするミユキに対し、俺は疑問符を浮かべながら一歩……足を踏み出すと。
―――――――――――――カチリ。
「あ゛」
足元が沈む感触と、鳴り響く短い乾いた音。
あ、死んだ。
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