第19話 入口
歩くこと十五分くらい、長く暗い道のりと、火の灯ったランタンを片手に、チロチロと流れる水路に従い歩いていくと。
水路の突き当りに到着をする。
「……すごいなこりゃ……一体どうやって見つけたんだよ」
そこにあったのは、水路を無理やり破壊したような大穴。
レンガ造りの壁は見るも無残に破壊され、水路の流れこそ阻害してはいないものの、残骸が流れる水に対しむせび泣くように浮いている。
「……結構長い時間放置されてますね……」
「この国がインフラに対していい加減で助かったな」
「本当ですね、ただ、とりあえずダンジョンがあるというのはあたりの様です。 すっごい魔力を感じます、ハートの有無はわかりませんが! ダンジョンがあるのは確かですよ! 」
ミユキは何かテンションが上がっているのか、パタパタとせわしなく俺の周りを飛びまわる。
「落ち着けミユキ」
「そうですが、ダンジョンですよダンジョン! あ、魔物のことならお任せを! 知識にしっかりと与えられていますので!」
「頼もしいわね、ミユキ」
「ええ! 勇者に妖精はつきものですからね!」
お前は神様だけどな。
「とりあえずまあ入るぞ」
俺は内心でミユキに対してそんな突っ込みを入れたのち、先導するようにその穴の中に侵入する。
中に入ると、そこにあるのはごつごつとした岩肌がむき出しになった明らかに人工的に掘り進められた道。
恐らくはサヤたちが開けたのだろうが……しばらく進んでいくと。
「開けてきたわね」
エリシアの言葉に俺は目を凝らすと、確かに道幅が少しずつ広くなってき始め、やがて、青白い灯りが通路へと差し込み始め……ようやく出口……いや、ダンジョンの入口へと到達をする。
「これは」
魔王の心臓が封印された場所……という話から、俺はてっきり洞窟型のダンジョンを想像していたのだが。
「大きい……です」
「……綺麗……」
そこにあったのは、何かの神殿にも似た石造りの建築物……そしてそこに至るまでのレンガ造りの通路を守護するように建てられた、様々なポージングを取る人型の石像。
異世界の建築様式の名前など知らないが、現実の建築様式で例えるならば、古代ウルクやエジプトの遺跡に、ギリシャの芸術的な彫刻をマッチングさせたような建築物と空間が目の前に広がっている。
まるでずっとそこにあり続け、時が止まっているかのように……。
風化することなく、威風堂々と俺たちの前にそびえたっている。
3Dグラフィック、VR、そんなものとは比べるべくもない……。
現実では触れることもかなわない……ダンジョンという名の神秘が、俺たちの目の前に確かに存在しているのだ。
「すげえ」
涙を押さえるだけで精いっぱいだ。
憧れ、そしてありえないものと割り切ってしまった世界。
奇跡も神秘もあればいいと願いながらも、そんなものは存在しないと理解してしまった前の人生。
そんなくだらない世界ではありえなかった本物の神秘。
それに触れ合い、覚えた心の高揚を感動と呼ばずに何と呼ぼう。
「門番は……見たところいないみたいね。 彫刻も魔力を感じられないし……ガーゴイルでも無さそう」
「ただ、神殿というわけでもなさそうですよ。 ものすごい魔力が渦巻いています」
「ええ、感じているわ」
「そうか? 俺にはさっぱりだが……」
そんな俺の感動などつゆ知らず、俺などお構いなしに石像やあたりを調べるミユキとエリシア。
そんな二人に対し俺は涙をぬぐい、後を追いかける。
辺りを見回すと、きらきらと光り輝く透き通った水が、いたるところから湧き出ており、灰色の石で作られたその神殿と彫刻を色鮮やかに彩っている。
「きれいだな」
こんなところに魔王の心臓があるというのは嘘のようだ。
「そうね」
彫刻に注意を払いながら、俺たちは石畳を歩いていく。
当然、足元にトラップがないかは細心の注意を払いながら歩きはしたのだが。
あっさり、というか拍子抜けしてしまうほど簡単にダンジョンの入り口に到着してしまう。
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