第16話勝利

ミユキが言っていたこと。 同期をしている限り、俺とミユキはスキルを共有する。


それはつまり、ミユキを介せばミユキが触れたもののスキルをグラップできるということだ。

――――――――――――――――――――

【マカロフ・ アークナイト】 LV4


保有スキル 剣技C 組み伏せD 一喝D 筋力増加D 抜刀E

――――――――――――――――――――

「貴様っ!?」


突然の攻撃に剣を抜こうとするアークナイト。


【グラップル!】


奪ったスキルのうち、俺は【組み伏せ】を奪い取り


ミユキへと手を伸ばした騎士の腕を掴み捻り揚げて組み伏せる。


「グッ!?」


自らをはるかに超える大男を投げ飛ばす感覚は新鮮であり、まるで他人事のように勝手に動く体となすすべもなく倒れていく人間の姿を呆然と見つめ。


「すげえなこれ」


そんな他人事な感想をついつい漏らしてしまう。


「あらあらぁ……」


「き、きさま!?」


突然の反撃に驚愕したのか、呆れたような声を漏らすサヤとは対照的に、ハンマーを持った男が慌てるようにハンマーを振り上げるが。


「しっ!」


スキル、剣技Cにより、俺はハンマーの持ち手を組み伏せている男から引き抜いた剣で両断する。


「なっ……」


小さく漏れる言葉と同時に、鉄ごしらえのハンマーはただでさえボロボロな石畳を更に悲惨な状況にさせ、呆けている男の首元に刃を突きつける。


「さて、丸腰のナイトに何ができる……だったか?」



組み伏せた相手は踏み続けることで、スキルグラップルを持続させ、剣を突きつけて二人の動きを静止する。


正直はったりとアンブッシュでここまでできるとは思ってはおらず、かっこつけてはみたものの内心では心臓が張り裂けそうなほど高鳴っている。


酒場を出るときにトイレに行っておいてよかった。


「……あらあら、お兄さんつよいのねぇ……レベル1なんて言葉、信じるんじゃなかったわぁ」


嘘ではないんだけどね……。


「ふっふーん! 転生者をなめるなよ、です!」


ひらりと、今回の功労者は舞い降りてどや顔を披露し、俺の頭の上で胸を張る。


「すっかり騙されたわぁ……丸腰やから楽勝思たけど……お兄さん、狐化かすなんて相当悪者やよ?」


「そんな感想述べるよりも、右隣見た方がいいんでねーの?」


「はて?」


俺の言葉に、サヤは首を九十度傾け、隣を見やると。


「サーヤー?」


顔面に青筋を浮かべ、同時にぽきりと拳を鳴らすエリシアがそこにいた。


正直、殺気だけなら剣を突きつけている俺よりもはるかにすごい。


「リューキ様大変です! ヒロインがしてはいけない顔をしています」


「言ってやるなミユキ」


「ひっ!?」


「どう落とし前つけてやろうかしら? 骨じゃ足りないわよね? 【自主規制】を【自主規制】して……【自主規制】する?」


拳を振り上げるエリシア。


恐らく何か魔法を付与されているのだろう、その腕の先からはつむじ風の様なものが舞い上がっている。


最初からそれで戦えばよかったのではないだろうか。


「あらぁ……怖い怖い」


振り下ろせばサヤは死亡確定……しかし、サヤはクスリと笑うと。


「余裕じゃない? 覚悟し……」


「うち、逃げ足だけははやいんよ……ほな、ばいなら」


エリシアの拳をさらりとサヤはよけると、そのまま弓矢の如き速度で

カラコロと下駄の音を響かせながらサヤは身軽に跳ねるように逃走をする。


「!? はやっ!」


「あっ!? こら逃げんじゃないわよ!?」


脱兎のごとくという言葉があるが、まさに脱狐である。


気が付けばあれだけ目立つ和装の装いでありながら、サヤの姿は人混みに消えて見えなくなってしまった。


「ご、ごめんなさいでしたー!?」


主人を無くし、戦う理由がなくなったためか、剣を突きつけられたハンマー使いの騎士もその場から走って逃げ去ってしまう。


当然、踏みつけている騎士から離れれば、五秒後に俺は剣すらまともに振るうことのできないポンコツニートに戻ってしまうため、追うことはせず。


そっと足を退けると、足元で組み伏せられていた騎士も立ち上がるとわき目もふらず走り出して逃げ出していく。


逃げるときによほど慌てていたのだろう、からからと剣の鞘も転がっていく音が響く。


「お見事ですリューキ様! 災難でしたね!」


「本当だよ……あぁ~怖かった……」


剣を置いていってしまった彼等であったが……恐らくもう返す機会はないのでせっかくだからもらっておくことにする。


武器にはステータスはうつらないようで、俺は試しに持ってみるとずっしりと重い感触が腕に伝わる……鋼の剣といったところか。


正直、棍棒から始めようとしていた自分からしてみれば、かなり優秀な装備と言えるだろう。


剣を鞘にしまい、腰に下げると、腰の左側に重量感が生まれる。


腰痛になりそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る