第13話 エリシアが仲間になった

「なるほど、なんとなくわかった。 世界の命運をかけた宝探しに、俺を誘ってくれたというわけだな?」


「そういう事よ、転生者は皆総じてダンジョンに詳しいと聞いたことがあったから……一緒にいてくれるだけでいいと言うのはそういう事。 戦いは私が、ダンジョンの知識はあなたが担当する……ダンジョン内は当然宝や魔物の素材がある、私はハートを破壊できればそれでいいし、貴方はロマンを求めて宝を手に入れられる……どうよ? 悪い話じゃないと思うんだけど」


悪い話じゃないが……俺の知識はゲームだけの話だからあてにされても困るのだが。


今更本物のダンジョンに入るのは初めてです……なんて言えないしなぁ。


「むしろ好待遇ですよリューキ様!」


そんな俺の不安をよそに、ミユキは無邪気に喜ぶように辺りを飛び回る。


まったく……もうなるようになれ。


「分かったよ……その話乗らせてもらう。だけどよエリシア、一つ教えてくれ」


「なにかしら?」


「……話を聞く限りかなり大きな大役だしとんでもなく危険な仕事だ。富と名声を求めるならば危険を承知で飛び込むものもわかるけど……なんでお前がわざわざそれをやる必要があるんだ?」


そう、宝はいらないといったエリシア。 しかしそれでは、危険を冒す意味もない。


しかし、エリシアは俺のその質問に静かに口を緩めると。


「魔力の源、魔王は私の国……エルフの国に眠っている。 復活をすればまず最初に滅ぼされるのは私たちの国……だから私は、頑張るのよ。大切な思い出が詰まった、私の故郷だもの……失いたくないの」


愛国心……聞こえはいいが、俺にとってはその感覚はさっぱりであり、そんな奇々怪々な感情を理解するつもりもない。


それを理解するならばまだ、高校生の教科書を開いて連立方程式を好きになるように努めた方が有意義にも感じてしまうのが俺という人間であり、当然のことのように自分の国を守るために命をかけている少女に俺はどこか彩のようなものを感じていた。


「それだけのものを背負っておいて、俺なんかを助けたのか」


「ギブアンドテイクよ……貴方だって私を助けてくれた。 似た者同士なのね、私達。 言っちゃえば、バカのつく程のお人よしってやつ」


すみません……ただ足場が崩れただけなんです……助けたのも成り行きなんです。


「リューキ様、エリシアさんはとってもいい人ですね」


「そうだな、俺にはもったいないぐらいだ」


というよりも、はっきり言って俺が無能すぎて泣けてくる。


「ちょ、ちょっと……いきなり何よもー、褒めても何も出ないんだからね!」


しかしなんだろう、この娘少々ちょろすぎないか?


「……まぁ、似た者同士云々の話は置いておくとして。 そういう事なら協力するぜエリシア」


「本当?」


半信半疑といったような表情のエリシアに、俺はにこりと微笑んでみせる。


「リューキ様、不気味です」


「ほっとけ」


やはり人との関わり合いがほとんどなかったため、笑顔すらもぎこちないようだが、そこはそこ。


正直、彼女の在り方にあこがれたのだろう。


これだけでかいものを背負っておきながら、当然のことのようにふるまう姿にも。


こんな華奢な体で……国を……世界を救おうとしているスケールの大きさも。


まるで、日曜朝八時から始まる特撮物の主人公を見ているようで、俺は心躍り、この少女のエンディングがどこへ向かうのか……その英雄譚を間近で見続けたいと思ってしまった。


そして、一緒にいれば、その物語の登場人物に俺でもなれるのではないかと……自分でも小賢しいと思うが、そんな打算的な考えも挟みながら俺はエリシアの誘いを承諾する。


「やったー! ありがとう! これからよろしくね、リューキ!」


「あぁよろしくな」


「エリシアさんが、なかまになった……ですね!」


「どちらかというと俺が仲間に入れてもらった形になるけどな」


「よかったわ、他のみんなと合流する前に話をまとめられて……」


「待ち合せしていた人間っていうのは他のパーティーのことなのか」


「ええ、リューキと違って、報酬を支払って雇った人だけどね……そろそろ行こうかしら」


時計を確認したエリシアは、そう俺に語りかける。


会話をしながらの食事の時間経過の早いこと、気が付けばあれだけ山盛りに積み上げてあった食事は姿を消していた。


「そうだな、ミユキ。 いけるか?」


「はいはいただいまー!」


楽し気に笑うミユキはそういうと、自分の身長位もあるナプキンで口元を拭くと、ひらりと舞い上がりエリシアの肩にとまる。


「あら? いいの、ご主人様の方に行かなくて」


「いいんですよぉ~。 もうお友達ですから」


「友達…………そう、ありがとう」


ミユキの笑顔に、エリシアは微笑んでミユキの頭を撫でる。


ユリ……ではなく、そのほほえましい光景に俺は自然と口元をほころばせ。


「じゃあいこっか」


エリシアの会計を待ったのち、飛翔する竜の太陽を後にするのであった。


                     ◇

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