第12話 冒険者酒場
「ダン……ジョン」
その言葉に俺とミユキは顔を見合わせ。
「ごめんなさい、やっぱりそういう反応するわよね……危険だし、ただ」
「すげええぇ!? ミユキミユキ! 聞いたか?」
驚愕と歓喜の雄たけびを二人仲良く上げる。
「はい、バッチリくっきりこの耳で聞きましたリューキ様! 初めての不思議なダンジョンです!ちなみにミユキも初めてなので、すごい楽しみですね!」
ダンジョン。 それは健全なる男児であれば一度は必ず夢見るであろう空間。
摩訶不思議にして奇想天外、罠があり冒険がありお宝がある……そこに、転生して真っ先に赴くことになろうとは……。
「……な、なんだかすごい喜びようね……頼んだ私が言うのもなんだけど、気は確か?」
あれ、なんだか引かれてるんだけど……。
なんだかはしゃいでいたのが気恥ずかしくなり、俺は隣にいるミユキをみると。
「ダンジョンは危険地帯ですから、まぁ余程の物好きじゃなければ行きませんよ」
と小さく耳打ちをしてくれた。
なるほど、そう言うことは早く言ってくれ、めちゃくちゃ変なやつと思われてるじゃないか。
「こ、こほん……とりあえず、ダンジョンに行くのは構わない。ダンジョンにはその、リスクを背負うだけの価値があるお宝も眠ってるだろうしな」
「なるほどね……まぁ確かにそういう考えもできなくないのかしら?」
少し訝しげな表情を見せたエリシアであったが、そう言うものと認識してくれたらしく表情が元に戻る。
どうやら気が触れた人間という誤解はなんとか解除されたらしい。
よかった。
「ですが、ダンジョンが危険視されているならば。 エリシアさんはなぜそのような所に行くんですか?」
確かに……気は確かかなんて聞いてくるぐらいだ、エリシアにとってそのダンジョン攻略というのはよっぽどの深いわけがあるのだろう。
まぁ、なんとなくそうだろうなとは思っていたが、話したくないなら話さなくても良かったのだが。
「……そうよね、私だけ自分のことを言わないって訳にはいかないわよね」
ミユキの質問に、深刻そうにエリシアは唇を噛む。
あちらは高度な駆け引きをしているつもりなのかもしれないが、質問をしたはずのミユキは既にデザートのさくらんぼに目を輝かせているので、駆け引きでもなんでもなく、本当になんとなく気になったから質問しただけなのだと思うので、正直に話してくれなくても良いのだが。
まぁ向こうが話してくれると言うなら止める必要もないか。
「それで、エリシアがダンジョン攻略をする目的は?」
「笑われるかもしれないけど……魔王の復活を止めるためよ、そのために私はダンジョンに挑む予定」
「魔王の?」
え? この世界魔王いるの?
だって神様は未実装だって……だから安全だって聞いてたのに……どう言うことだ?
困惑する俺であったが、そんな俺の戸惑いなど知るよしもないエリシアは淡々と事情を説明してくれた。
「かつてこの世界を牛耳り、世界を恐怖に陥れた恐怖の魔王フォース・オブ・ウイル。その力が覚醒し、再度この地に降り立つことを、私達エルフ族の神官が予言をした、それが数年前」
「よ、予言?」
「エルフ族の神官はミユキ様を信奉していて、神官の方には時々ミユキ様直々にお言葉を賜ったりしてるんですよ」
こそりとミユキは俺の耳元でそう告げ、俺はなるほどねと納得をするが。
「おい、話が違うじゃねーか……魔王は今いないんじゃなかったのか?」
「第二第三の魔王はですよ、リューキ様、今までいたやつが復活しないとは限らないです……事実、この世界にはほんの二百年前まで確かに魔王がいました」
「んなっ……今はいないってだけか!?」
詐欺じゃん!?
「知らないですけど、ミユキ様は言葉が足らないお方なので……まぁでも、封印がされているなら、いないのも同じですし……」
「いやまぁ……そうかもしれないけどよ」
なんていい加減な神様だ……と俺は心の中で悪態をついて舌打ちをすると。
「ちょっと、何ひそひそ話してるのよ! 嘘じゃないからね! 痛い女じゃないからね!」
エリシアは俺たちが疑っていると考えたらしく、むすっとした表情でこちらを睨みつける。
「悪い悪い、ちゃんと信じるから」
「本当?」
「あぁ、それで、どうして魔王が復活するってなるとダンジョンを攻略することになるんだ?」
「言葉がたらなかったわね、ごめんなさい。ダンジョンといっても、自然にできた奴じゃない。 それぞれが魔王の力を封じた洞窟が、その魔力によって異次元化した場所なの……」
「魔王の力を?」
「そう、ハートっていうんだけれども。 打倒された魔王のハートは4つに引き裂かれた……」
「グロテスクな話だな……」
「リューキ様の世界でだって、アインシュタインやザビエルさんはバラバラにされて保管されてるじゃないですか」
「そうだった……罪人じゃなくて偉人をそうしているあたり、今思うと俺たちの世界って恐ろしいな」
「ちょっと聞いてる?」
「わりい、続けてくれ」
「だけど、4つに分かれた心臓は今もまだこの世界で脈動を続けている」
「なぜ?」
「魔王はハートを抜かれても生きているのよ、地中深く、この国のダンジョンの奥底でまだ眠っているの」
なにやらへんな言い方だが、ハートっていうと心臓のことだろう?
「……そして、心臓を抜かれた状態で魔王は力を蓄え続けていて……近々心臓のない状態で復活をするということか?」
魔王凄いな……そりゃ世界滅ぼせるわ。
「そういう事、魔力の核、生命の核であるハートを取られた状態で復活して、そんな状態でハートを手に入れたらどうなると思う?」
「控えめに言っても世界は破滅だな」
「そうでしょう?」
「だが、どうして心臓(ハート)を封印するだけにとどめたんだよ、斬っても死ななくても他に方法は幾らでもあるだろう?」
「まぁね。 だけどそれをしなかったのは、魔王のハートはその国に繁栄をもたらしたから」
「繁栄?」
「そう、魔王のハートはまさに魔力の塊みたいなもの、今みたいに平和じゃなかったこの世界で、魔王のハートは減らない資源になり、繁栄をもたらした」
「魔力はこの世界で言うエネルギーの源です。 石油やガスを燃やして発電等々をするように、この世界ではマナと呼ばれる大気中の魔力を利用して生活をしているんです」
なるほど、考え方としては、魔力=石油みたいなもんか。
そんでもって、魔力を生み続ける心臓ということは。
「枯れない油田みたいなもんか」
「そう考えて差し支えないですリューキ様」
「それで、こうして魔王の魔力を利用しつつこの世界は発展を遂げた」
「だが、いつまでもそうしているわけにはいかないと?」
「ええ、だけど魔王が倒された後、人々は魔王のことなんて忘れてしまっていた。 それどころか、忌むべきものとして関連する記録をすべて消してしまったのよ、異端につながるってね……」
「なるほど、おかげで心臓のありかはわからずじまいというわけか」
宗教関連ではよくある話だ。
俺たちの世界でも古代ギリシャの科学者は地球が球体で自転していることを理解していたが、キリスト教徒によって文献は抹消され、天動説が広まったという話を聞いたことあるし。
「そういう事……確かに、ハートのあるダンジョンっていうのは魔力とハートの呪いによって異界と化しているし、魔物も多く住み着いている。 だけど、それは自然に発生したダンジョンも同じこと。 各種族の国も冒険者をこうやって雇い入れてハート探しに躍起になっているんだけど」
「未だに収穫は得られていない……」
「?」
ちらりと横目で周りを見ると、顔を赤らめた冒険者が2~3人こちらの話に興味を持つように耳を傾けている。
なるほど……情報が集まり、奪い合う場所ね。
なんとなく、ここの流儀を理解した俺は一度エリシアの耳元まで口を寄せ。
「が……その場所を、お前は見つけた? そういう事か?」
小声で誰にも聞こえないように耳打ちをする。
「ええそうよ・・・・・……貴方の言うようにさっぱり分からないわ……ごめんなさい」
エリシアは口元を緩めて俺の意図を読み取りそう語ると、一獲千金の可能性のある話は夢見る若者の戯言へと形を変えたのか、視線が外れ冒険者たちはまたいつもの日常へと戻っていく。
「だけど探してみる価値はあるってことか」
「そう言うことね」
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