第10話 竜王国アルスマグナ

「ここが竜王国アルスマグナ……」

その後、草木の茂る細道から大通りへと合流した俺たちは、旅人に紛れてあっさりと竜王国、アルスマグナに到着した。

道中、異世界の服装をしている俺は目立ってしまうのではないかと不安を覚えてはいたが、あたりを見回すと旅人は皆それぞれ奇抜な格好をしているものが多く……特に俺の服装が目立つということはなかった。


「ここは、竜王国アルスマグナ最西端に位置する、アルゴンという町でして、人口二万人ほどの軍事都市です。今は平和なので観光都市としての側面が強いですが、エルフとの戦争終結の際、平和条約が結ばれた場所でもあるんですよー!」


「ほー」


ミユキの話に俺は感心をしつつ、お上りさん全開であたりを見回してみる。


アルスマグナの街並みは、どこか古代ローマを彷彿とさせる石造りの建物に加え、舗装された石畳が町すべてに敷かれており……鉄や鉄筋コンクリートのような存在の欠片もない。


商店街に位置するのだろう中央の通りの脇には、バザールのような形で人々が果物や野菜、肉などを売っており、ほほや肌の一部に白い鱗を持ち、こめかみから後ろに伸びるような形の角が生えた住人たちが、店員たちと値段交渉をしているのが見える。


いよいよ、ファンタジーっぽくなってきた。


「……それにしても、自分で頼んでおいて何だけど……やけにあっさりついてきてくれたわよね」


そんな異世界で初めての集落に目を輝かせていると、エリシアはなぜか怪訝そうな表情で俺にそう語りかける。


「まぁ、どちらにせよ初めての町ですからね……テルモピュリーに行こうが、アルゴンに行こうが変わりませんから。それなら仲間ができる方向で話を進めるのが賢い選択だと、ご主人様は判断したのだと思いますよ? ね?」


え? そうなの?


「なるほどね……まぁこちらとしてはありがたいけれども」


ミユキはひょっこり俺の肩口から頭を覗かせてそういい、エリシアも納得してくれたようだが……。


「むしろ、俺たちの方こそいいのか?」


俺は、先ほども話した内容を再確認する。


「ええ、まさかあなた達が転生者だって聞いた時は驚いたけどね……でも逆にラッキーだわ……今の手持ちじゃ、竜を倒せるほどの冒険者を雇えるわけがないもの」


「……過度な期待をされても困るぞ? 本当にただの一般村人-《マイナス》くらいの人間なんだからな、俺は」


「なんで一般人よりも自分の評価が低いのよ……自信持ちなさいよ転生者」


「いや、それはニートの性であってだな」


おおよそこの世界のように、人の能力を数値化する技術が現実にあったとしたら、俺は一般人マイナスどころでは済まないだろうし。


「ニートの……あぁなるほどね……ナイトは謙虚だものね」


苦笑を漏らし、ローブの奥で笑う少女。


好意的にとってもらえるのはとてもありがたいのだが……その期待はニートにとって大きすぎる重圧だ。


「いや……だから、俺はまだこの世界に来たばっかりで」


「はいはい……大丈夫よ、最悪一緒にいてくれるだけでいいから」


どうやらエリシアは、本格的に俺が謙遜しているだけと思い込んでいるらしく。


着々と少女の上に積み重なっていく死亡フラグに俺とミユキは顔を見合わせて苦慮する。


「リューキ様、どうしましょう」


「どうするもこうするも、とりあえずは一緒にいるしかないだろう……逃げ出すわけにはいかないし……」


「でも武器も何もないですよ? スキルグラップルも過信は禁物です……触れなきゃ力を発揮しないんですから」


「分かってるよ……」


そう俺がミユキと共に現在の状況に苦心をしていると。


「まだ時間はありそうね」


エリシアは一度止まり、あたりを見回すそぶりを見せて、そうつぶやく。


「……どうした?」


「いいえ、何でもないわ。 其れよりもお腹空いてない? 実は私朝から何も食べてないのよね……」


エリシアはそう苦笑を漏らすと、俺とミユキは顔を見合わせ。


くぅっと、俺とミユキの腹が声の代わりに返事をした。


「……食事にしましょうか……」


エリシアはそんな返事に苦笑を漏らし、俺たちは顔を赤くしてミユキについていくのであった。

                    ◇

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