スナックの女の子『ゆま』(お笑いネタだで)

岩田へいきち

スナックの女の子『ゆま』(お笑いネタやで)


「なんか、嬉しそうにしてるな、お前。どうしたん?」


「いや、分かるか? やっぱり嬉しいこと、お前には隠されへんな。さすがやわ。俺のこといつも見てるやろ?」


「まあ、相方やからな。見てる言うたら見てるわな。こら、何、照れてんねん」


「実はな…… これやがな」


「『これやがな』って、小指立ててどうしたん? 『これで会社を辞めました』ってことか?」


「いや、ちゃう。会社辞めたら食べていかれへんがな。お前とのお笑いコンビで食っていけると思うか?」


「思いへん。食べられへんわ」


「やけにすんなり認めるな。まあ、ええわ。出来たんやがな」


「『出来た』て、奥さんに子ども出来たんかいな? 奥さんいくつやねん、大丈夫かいな?」


「『大丈夫かいな』って、失礼やな。まだ、48やで」


「そうかいな。で、誰の子やねん? お前じゃ無理やろ。お前の身体じゃなくて、奥さんの気持ちがな……」


「『気持ちがな』って何やねん。ちゃうて、俺の子どもお前の子ども出来てへんて。彼女が出来たんや」


「なんや彼女かいな。びっくりしたわ〜。良かったわ。余計な心配してもうたわ」


「何でお前が心配せなあかんのや? 思い当たる節でもあるんかいな?」


「まあ、ないことないけどな」


「あるんかいな。まあ、ええ、好きにしてくれ」


「いや、それは遠慮しとく。それはそれとして置いといて、彼女って誰やねん?」


「置いとくんかいな。ゆまちゃんや。可愛いんやで」


「ゆまちゃんって、またお前、飲み屋のお姉さんに騙されたんちゃうんかいな? 前も博多の中洲のお姉ちゃんに入れ込んでもうて、嫁はんに中洲出入り禁止にされとったやないかい。そしたらその子に途端に放って置かれて、海外まで逃げられたんちゃうんかいな?」


「いや、そんな、俺のことをストーカーみたいに言わんといてんか。あれは、自分探しの旅にハワイへ行ったり、宮古島、住んだり、香港、住んだりしただけやがな」


「逃げとるがな。住所変えながらな。お前のこと相当怖かったんやな」


「そんな凶悪犯みたいやがな。きっと、俺が中洲行けなくなったから彼女、寂しくなって、中洲に居る意味なくなったんやと思うわ。ほんとに悪いことしたと思うわ」


「しかし、お前、ようあの頃、中洲へ行くような金あったな。店行く前に食事したりする同伴とかしたら1万2万じゃとても済まんやろう?」

  

「いやな、一度だけ、お金が少し入った時があったんや。直ぐにのうなったけどな。」


「お金、のうなったから彼女、離れて行ったんちゃうんかい? 彼女らは、お金があるならお前みたいな奴とも話、合わせてくれるけどな。お金がない奴とは付き合わへんのやで。そらそうやな。お店のために同伴も付き合うし、お店の売上げのために嫌なこと一つも言わないんやからな。お金持ってる奴かどうか一目で分かるんや。匂いも嗅ぎ分けるで。だからそのゆまちゃんも直ぐに離れて行くんちゃうか? お前がそんなにお金もってないこと、もう気づいてるはずや」


「ちゃうて、ゆまちゃんはな、中洲でのうて、こっちの小さなスナックで働いてる子なんやけどな。お金持ってるかどうかなんて、ちっとも気にしてへんって。俺を、俺そのものを見てくれてるんや。後輩をな、連れてな、カウンター席に二人並んで座るやん。後輩は、俺より10コくらい若いんやけどな、ゆまちゃんも28で若いからな。普通やったら、若い方、選ぶと思いへんか? その後輩が訊くねん、『どっちがええか?』ってな。こりゃ、俺の負けやろう思うてもな、ゆまちゃんは、違うねん。『それは、分かりませんよ、ねぇ』って、俺に目配せするねん」


「お前の方がええって言ってへんやないかい。さすが、上手く言うとるな。お前にも後輩にも含み持たせとるわ。その後輩よりお前の方が金もっとると思うたんやろな。それだけのことやで」


「まあ、そうなんやけどな。その後輩な、ちいっとも金払わへんねん。やから俺が全部払うんやけどな」


「ほら、みてみぃ、ちゃんとお金の出どころ把握してるやんか、ゆまちゃん」


「ちゃうて、ゆまちゃんは違う。お金なんぞに目は眩んどらんて。ゆまちゃんはな、色が白くて、髪がサラサラで長いんやけど、短く切っても直ぐに伸びてくんねん。さすが、若さやな。

そんで、スラっとしてるんやけど、ちゃんと出るところ出てるねん。抱きしめるとな、胸が当たってくるしな、とっても甘い香がするねん」


「ほう、お前、ゆまちゃんを抱きしめたんか? やるやないかい」


「いや、後輩がな、そう言うとったわ」


「後輩かいな」


「あいつな、ちいっとも金払わへんのやで。だけどな、会計済ませて、店の外までゆまちゃんが見送るやんか、そしたらな、酔ったふりしてゆまちゃんに抱き付やがるんや。ちいっとも金払ってへんのやで」


「そら酷いなあ。まあ、飲んだときのことは、酔ったもん勝ちみたいなところあるけどな。お前も抱きつかせてもらえばよかったやないかい。抱き付かんやったんか?」


「いや、後輩もな、飲んでる時の会話の中ではな、先輩の俺をな立ててくれることもあるからな、まあ、ええかと見てたんやけどな。ゆまちゃんがな、抱き付かれてる間、じっとしてんねん。目を潤ませながらな、俺を見てんねん。『私は、仕事だからこんなこと嫌だけど我慢してるの、ほんとはあなたに抱きしめて欲しかったわ』と聞こえてきてな。もう俺は、何も出来なくなってしもうたわ」


「まあ、そういう仕事やからな。そんな面もあるわな。お前に抱きしめて欲しいとは思うてへんかったやろうけどな」


「そんでな、それに懲りてな、俺はそれから1人でゆまちゃんところへ行くようになったんや」


「よう、そんな金あったな?」


「ジンジャエールだけで粘ったわ」


「効率悪い客やなあ」


「それでもな、俺、カウンター席に座るやんか。ゆまちゃんはな、人気者やからな、あちこちのテーブルにつくやん。でもな、ちゃんと俺の前にも来てくれるんやわ。『疲れたわ〜』ってな」


「それ、お前とこで休憩しとるだけちゃうか?」


「そりゃ、そうかもしれんけどな、俺のこと好いとる思えへんか? 俺のところで休憩やで。心許してる証拠やがな」


「いや、お前も一応客やから、効率悪いけど、ちょっとぐらい喋ってやらんとと気い使ってるだけやろ? プロやからな」


「俺がサッカー好きやからな、サッカーの話してくれるんやで。Jリーグの試合、連れたったるから見に行こうやと誘うたらな、『行きましょう』と言うてくれるんやで。なあ、好いとるやろ、俺のこと」


「そりゃ、挨拶や、営業トークや、誰がお前なんかと二人きりで行くねん?」


「あっ。『友だちも連れて来ていいですか?』って言うとったけどな」


「ほら、みてみぃ」


「いや、女の子やで。一粒でニ度美味しい感じで快く『いいよ』言うてもうたわ」


「何が『一粒でニ度美味しい』やねん。サッカー観戦で何食べるんかいな?」


「それでもな、LINEアドレス、教えてくれるんやで。中洲のな、キャバクラなんかはな、直ぐに教えてくれるけど、直ぐに捨てられるんや。でも他方のスナックはな、なかなか教えてくれへんで、特に若い子はな。な、好いとるやろ、俺のこと」


「お前がしつこく訊いたからちゃうか? 効率の悪い客やけど少ないより多い方がいいからな。教えることもあるやろな」


「でも、ちいっとも『飲みに来て』と連絡来ないんや」


「そら、お前、効率悪いからな。別に会いとうなるタイプとも違うしな」


「ちゃう、思うねん。『あんまりしつこく誘って嫌われたらどうしよう?』と考えてる思うねん。けなげな乙女心ってやつやな。なあ、可愛くて、俺のこと、好いとるやろ?」


「いや、ただ、お前のこと、どうでもええだけやて。来て欲しい客にはちゃんと連絡行っとるわ」


「そうかな? でもな、『同伴してくれる?』って誘うたらな、『いいよ』って言うてくれたん。なあ、俺のこと好いとるやろ? 嫁はんに言わんでな」


「言わへんって。同伴する金持っとったらお前とでも付き合ってくれるやろな」


「そやろ、やっぱり、俺のこと好いとるやろ? ゆまちゃん可愛いわ、やから金貸してくれへんか?」


「金ないんかいな。もう、ええわ」


「「ありがとうございました」」



終わり



☆  ☆  ☆  ☆  ☆


最後まで読んで頂きありがとうございます。

これは、ほとんど実話ですが、ゆまちゃんは、『ヤンキーの恋人―島浦のカフェ―』に出てくる「由真」です。こちらもほぼ、1/2以上実話です。興味がある方是非読んでください。↓

https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860132006463/episodes/16816927860132405841

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