第14話 天使の初めて

 翌日、俺とシャナさんは朝食を食べながら今後の事について話し合う事にした。

 とはいえ、彼女はあくまで居候として扱うつもりではあるが。

 マッサージ師というのは専門職なので彼女にそれを任せられないし、それじゃあアシスタントを頼むのかと言うとそれもなんだか違う気がするし。

 別に頼りないとは思ってない。 

 むしろ天使だし俺以上の仕事はするとは思ってる。

 ただ、適正がないとも思ってはいるが。


「と言う訳で、シャナさん。今日は君に家事の仕事を任せてみようと思う」


 つまり部屋の掃除とか、ご飯の準備とか。

 掃除については多分洗浄魔術が使えると思うのであっという間に出来るだろうが、しかしご飯の準備については未知数だ。

 ていうか彼女、何時からどれくらいの期間眠っていたのか俺はまだ聞いていないので、彼女が料理を出来るのかは分からないのだ。

 それについて聞いてみたところ、


「それじゃあ、今日のお昼はうちの家庭の味を味合わせて上げるねっ」


 なのだそうなので、多分料理は出来るんだと思う。

 とはいえちょっと怖いので、「ちゃんとご飯の味見はしとけよ」と言っておいた。


 それから俺は彼女と別れて仕事場をオープンする。

 今日は予約は入っていない。

 なのでもしかしたら暇になるかもしれないし、大盛況になるかもしれない。

 まあ、今のところ大盛況になった試しがないので多分今日もそうはならないだろう。

 実際、9時から開いたお店の扉を開く客は一人も来なかった。

 どうやら今日は閑古鳥が鳴く日だったらしい。

 まあ、それでも何とか成り立っているのがこの店なので、別に客は来なくても大丈夫。

 俺はそろそろご飯かなと壁にある時計を見、それから一度店を閉めてから「ご飯、食べれるかー?」とシャナさんに聞いてみる。

 するとキッチンの方から「大丈夫だよ~」と答えが返って来たので、とりあえず彼女の手伝いをしようと思いキッチンの方へと向かうのだった。


「んー」


 とりあえず期待を裏切られたくなかったのでハードルは低く設定しておいたのだったが、しかし彼女が作った料理は思った以上の出来栄えだった。

 これは――ガレットと言う奴だろうか?

 いわゆるそば粉で作るパンケーキみたいな奴で、沢山の野菜と鶏肉、半熟の卵がその上に載っている。

 美味しそうなソースからは俺が常備している「味噌」の匂いが漂っている。 

 それが若干の不安要素でもある。

 彼女にはそれの説明をしていないのだが、ちゃんと味見はしたのだろうか?

 だって彼女、「家庭の味」を作ると言っていたのだし、だとしたらこの「味噌」は珍しい調味料なのでない筈。

 もしくは彼女の家にも「味噌」があった可能性があるが、果たして……


「ああ、これ? 王子様の好きな味だと思って使ってみたけど、ダメだった?」


 聞いてみると、どうやらちゃんと味見はしたらしい。

 その上で「俺好みの味になる」と考えて使ったらしいので、多分味の方は大丈夫だろうと思う事にした。

 とりあえずそれらを載せた皿を持ってリビングへと向かう。

 そしてフォークとナイフを置き、そして手を合わせて「いただきます」と挨拶をした。

 シャナさんも俺を真似て「いただきます」をした後に、「これ、簡単だけど食事前のお祈り?」と聞いてきたので、おれは「まあ、そうだな」と適当に相槌を打つ事にした。

 それから俺は恐る恐るガレットをナイフで切り、鶏肉と野菜と一緒にドキドキしながら口の中に運ぶ。


「……ん」

「どう?」

「美味しいな」


 味噌ソースと鶏肉、野菜とガレットの生地がマッチしていてとても旨い。

 結構濃い味付けになっていてそれが俺の好きな具合になっているのだが、これは多分偶然だろう。

 鶏肉も火が通っていてジューシーだし、野菜との組み合わせもグッド。

 それから半熟卵を割って、蕩けた黄身と一緒に口に運んでみたが、これまた美味い。

 

「いや、本当に美味いな。これがシャナさんの郷土料理なのか?」

「うん。うちの場合は鶏肉はあまり食べなくて野菜ばっかりだったけど、私は鶏肉とか牛肉とか、兎に角肉が載っていた方が好きだったな」

「ふーん」

「まあ、それは私が眠る前の話だけど。今はどうだか分からない――ああ、それと」


 と、シャナさんはそういえばと手を叩く。


「ずっと思ってたけど、シャナ、で良いよ」

「ん、そうか。それじゃあ、シャナ」

「なに?」

「美味しかった。この調子で作ってくれるとありがたいな」

「~、うん!」


 にっこりと微笑む彼女。

 最初は結構不安だったけど、これならずっと彼女に任せても良いかもしれないな。

 料理も美味いし、将来は良い嫁さんになるのだろう。

 

 まあ、彼女は俺と結婚したいとずっと言っているのだが。


「……」


 ちょっと、赤面。


「どうしたの?」

「いや、料理が美味いなって」


 それを言ったら間違いなくはしゃぎ始めると思うので、そう誤魔化すしかないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る