第13話 かわいい天使

 どうやら天使族の村、ヘンデルの者達は無意識に「支配」されていた事に対し何らかの対策を講じるがあると考えたらしく、その首謀者を倒した俺に対し結構な報酬と賠償を渡し、その上で一度帰って欲しいと懇願されたのだ。

 多分、ただの部外者でしかない俺には聞かれたくない話をするんだなと思った俺は頷き、素直に帰る事にしたのだった。

 リルルさんのテレポートであっという間にホワイトストーンへと到着。

 疲れたので早く自宅に帰ってゆっくりしたいと思っていたのだったが。


「ここが王子様の御宅なんですね」


 例の天使、シャナがいるのはどうしてだ?


「なんでいるの?」

「いやだなぁ、ちゃんと許可は貰ってますよ?」

「そうじゃなくて。別にあの村から離れるのは良いけれども、どうしてここにいるのかって話だよ」

「今日からここに住みます」

「何故にッ!?」

「ここに住まわせて貰わないと宿なしのホームレスです」

「いや、それなら姉の方を頼れよ」

「ここは都合の良い女が手に入ったと思って」

「君のような子供をそんな風には思えないよ」

「私、これでも」

「人外特有の外見年齢と乖離した肉体年齢の話は面倒だから止めるんだ」


「はあ」と溜息を吐く。


「別に、住む事に関しては構わない、空き部屋はあるからな。ただ、先に一言二言言ってくれ」

「ご、ごめんなさい。断られる可能性も考慮して、強引に頼み込んだ方が良いかと思っちゃって」

「まったく……」

「家事手伝いはちゃんとするから、出来れば一緒に住まわせてください」

「そういうのを先に言え」

「お嫁さんとして妻にしてくれると嬉しいな」

「……そういうのは出来ればもう二度と言わないでくれると嬉しいかな」

「つまり行動で移せと?」

「ただの人間は天使族には勝てないので止めてください」


 ともあれ、疲れているので会話はこれでおしまい。

 食事にする事にする。

 シャナさんは自身の発言通り手伝おうとしてきたが、とはいえ今はまだお客さんなのでじっとして貰う事にする。

 今後の仕事については、後に話す事にしよう。

 と言う訳で、食事をする。


「……っと、久しぶりの食事だから消化の良い奴にしたけど、良かったか?」

「ありがとう、王子様。でも、私がもうちゃんとご飯を食べられるのは、実家でちゃんと食べているのを見てたから分かってたと思ったけど」

「天使族の常識と人間の常識は違うからいろいろと混乱するんだよ」

「ご飯は、大丈夫。王子様の作ってくれた料理、良く味わって食べます」


 とはいえ、今回の料理は卵粥。

 俺も疲れているので、ここで胃袋を疲れさせるようなご飯は避けたかった。

 塩でさっと味付けしただけの簡単なものだったが、疲れた体にはそのシンプルな塩気が沁みてくる。

 ああ、美味しい。

 シャナさんもとても気に入ったようで、良く味わって食べると宣言した割にバクバクと口の中に入れている。

 良かった、沢山作っても無駄にはならないようだ。


「この、お米っていう食べ物。初めて食べたけど美味しいね」

「ああ。俺もまさかあるとは思ってもみなかったから驚いたよ」

「……王子様ってこの国の人間じゃないんだね、やっぱり。見た目がこの国の人間っぽくなかったからもしかしてと思ったけど」

「ん、そうだな」


 俺はいつも他の人間にしているような説明をする事にする。


「日本っていう、かなり遠いところにある国が出身だよ。今は訳があって戻れないけど、故郷の味は忘れてないんだよな」

「このタマゴガユ……というより、米が故郷の味なんだ」

「ああ、そうだな。とはいえ故郷で食べた米の方がずっと味は良いんだけどね。その内品種改良とかにも手を出したいけど、それだと完全に農家に転職しないといけないからなー」

「それじゃあ、私がそのひんしゅかいりょー? をしましょうかっ」

「いや、普通の人間には難しい作業だから良いよ」


 そうこう話している内に卵粥が入った鍋は空っぽになる。

 ふー、と満足げに息を吐くとシャナは小さく「けぷ」とげっぷをし、顔を赤くした。

 どうやら彼女も満腹みたいだ。


「じゃ、部屋に案内するよ」

「あ、はい」


 俺は彼女の為の空き部屋へと連れて行き、「ここは自由に使っても良いから」と伝えておく事にする。

 ベッドもあるし、今日はここで休んで貰おう。

 そう思い、俺もまた疲れた体を休ませるために自室へと戻ったのだったが。


「何故いる?」

 

 なんか、シングルベッドで狭いのに隣で眠っているシャナの姿があった。

 

「いえ、その」

「なんだよ」

「……」

「理由、言ってみな。怒ったりしないから」

「……また、ずっと眠ったまま起きられないかもって思うと、恐くて」

「……」


 そういう、事か。

 俺はそういう事ならと「それじゃ、特別だぞ?」と彼女に言う。


「しばらくは、一緒に眠っても良い」

「ありがとう、ございます……」


 結局俺は彼女と一緒に眠る事になった。

 しばらくこちらに抱き着いて来るように身を寄せる彼女の背中をぽんぽんと叩いてやっていると、すぐに眠りについていた。

 俺も早く眠ろうと思い目を瞑るのだった、が。


「……」


 眠れねえ。

 ……女の子特有の甘い匂いが辿って来て、全然睡魔がやって来ないのだった。

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