第12話 あらためて見よう
『見る』と言う事に特化した能力であるが、実際本気を出せばどこまで見れるのか試した事がある。
結論から言うと、見えちゃいけないものまで見えた。
この場合の見えちゃいけないものというのは倫理的に見えていけないものではなく、論理的に見えてはいけないものだった。
その時見たものとは、コップの中で沸騰する水。
火をかけていないのにも関わらずぐつぐつ煮えたぎる水を見て「何だこれは?」と思った。
ただ、それはどうやら何かしらアクションを取る事により「あり得た」かもしれない可能性であって、現実的ではなくてももしかしたら起きていたかもしれない事みたいだった。
そんな「もしかしたら」を観測する事が出来てしまった俺は、そこから更に実験をする事にした。
それをしたのはかつての世界で「二重スリット実験」なるものがあった事を知っていたからだ。
量子力学の、量子は観測する事により振る舞いを変えるという事を象徴する実験だ。
それを知っていた俺は、だから「見る」と言う事に対して何かしら神聖視をしていたのかもしれない。
そしてそれは偶然的に起きた。
起きてしまった。
「現実に「見た」ものを投射する事が出来てしまったんだ」
「そんな、事が……」
あの男に吹っ飛ばされた彼女達の家に戻ってきた俺は、今はシャナさんと二人きりで話をしていた。
二人きりなのはシャナさんの望みだからだ。
どうやってあの魔族の男、べリアを倒したのか、その方法を知りたがっていた彼女に俺はマッサージをしながら解説をしていた。
……何故マッサージをしながら、なのか。
そこは突っ込むところではない。
むしろこれが本職だし、これをするために俺はこの村にやって来たのだから。
「膨大な魔力を引き換えにして、俺は夢想の可能性を「現実」にする力を持っている。正直、過ぎた力だとは思うけどね」
「だ、けど……そんな事が出来るのならば最初から」
「出来る程、俺の体内に魔力はないんだ。最初の時も、確か小さなガラス玉を蒸発させるだけで三日間は寝たきりになったからなぁ」
「それじゃあ、今回はどうし、て……?」
「君の身体から生えてた莫大な魔力を蓄えている結晶を、食った」
「……へ?」
目を丸くしているのが分かった。
「流石に腹壊すかと思ったね。いや、それどころか死ぬかと思った。そもそも他人の魔力を何のフィルターもなしに摂取しようと思ったこと自体が間違いだったよ。幸い、手元にエリクサーがあったから、それをがぶ飲みしてなんとかなったけど」
「ど、どうして」
「ん?」
「どうしてそんな事が出来るの? 確かにそうしなければ死んでいたかもだけど、だけどそんな事は普通出来ない……」
「死ぬ気だったから出来ただけだよ。それに」
「それ、に?」
「君の未来が、アレを倒さねば塞がれていた事は「見る」までもなかったからね」
「……」
それに対し彼女は黙ってしまう。
今度こそおしゃべりはおしまいかなと思いマッサージに集中できると思ったが、しかし。
「……王子様」
「……んえ?」
「王子様、王子様、王子様!」
「な、なに?」
「私の王子様、だったんだ貴方はっ」
ど、どういう事?
いきなりテンション爆上げするのは結構だけど、暴れないで欲しいんだけど。
「ずっと、来てくださると思っていたの。私の眠りを起こしてくれて、この身体にキスをしてくれる王子様が。貴方が、そうだったんだねっ」
「いや、多分君の想像するような人間ではないよ、俺は。ていうか落ち着いてくれ」
「もしかして既にお姉さんは現地妻に?」
「実の姉を現地妻とか言うのは止めようか」
とりあえずイタイツボをぐりぐり押して黙らせる事にした。
しかし彼女はむしろヒートアップする。
「私もお姉さんと一緒にいただかれたいですっ」
「これがほんとの病人食だってか? 喧しいわ」
「うふふ、王子様はご冗談も上手いんですね。流石です」
「兎に角、君のお姉さんには全くお手つきしてないからな? 彼女とは仕事上の関係ってだけで、それ以上でもそれ以下でもない」
「そ、それじゃあお付き合いしているお方とかは」
「……いないよ」
「じゃあ、私が立候補してもっっっっ!」
「とりあえず身体を治すところから始めよう」
どうやら長い闘病と夢の中での生活の所為で、彼女は多少夢見がちな乙女ちっくな思考になっているらしい。
とりあえず俺がいなくなれば多少落ち着くでしょう。
そう、思っていたのだが。
「お母さん。私、王子様の妻になります」
なんか、付いて行くつもりでいるんだけどこの子。
「ええ、いってらっしゃい」
そして母親の方は何故かゴーサインを出しやがった。
「ちょっと待ってください」
「シャナは好き嫌いしないとても良い子ですので、無理しない範囲でこき使ってやってください」
「いえ、まだ病気が治ってばっかりの人に無茶はさせられませんが」
「シャナ、幸せになってください……!」
「ちょっとお姉さん」
「貴方に義姉さんと呼ばれる筋合いはないのですがっ!」
「どういう事だってばよ……」
そんな惨劇を見て、ステラさんは呆れたように呟いた。
「平和ねー」
それはマジでそう思う。
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