第9話 のろい
とりあえず、近くで見させて貰う事にした俺は、改めてシャナさんに近づいてじっとその症状を見てみる。
彼女は今、結晶がある為服を着れていない、だから完全に全裸な状態だった。
多分幼い外見とそれに見合わない豊満な胸、そして腹部から胸にかけて走るように生えている結晶。
俺のステータス開示によると彼女は【呪い 結晶付与】状態らしいが、一体これはどういう事だろうか。
少なくとも俺を除く皆はこの症状を体内魔力の異常と思っているらしい。
……呪いそのものが体内魔力の異常によって引き起こされているのだろうか。
とはいえ、ひとまずこの症状を一時的に治す事は出来る。
俺はカバンに入れておいた対呪用のクリアポーションを取り出し、試しに結晶へと一滴落としてみる事にした。
すると案の定、それはじわじわと溶け始め、そしてぱきっという音と共に亀裂が走った。
それを見、リルルさんは驚いた表情をする。
……どうやら彼女はこの現象を引き起こした原因ではないみたい、だな。
「な、治るんですか?」
「一時的には、一応彼女に対応する薬は持っているので。ただ、完全な治療方法に関してはまだ、と言った感じです」
「いえ、いえ。この忌々しい結晶がなくなり妹が目を醒ますのならば、私は――!」
俺はとりあえずこの結晶をなくすべく、どんどん結晶にポーションを落としていく。
大体ポーションの瓶が4分の1ほどなくなった時、完全に彼女の身体から生えていた結晶は消え去った。
しかし、彼女は目を醒まさない。
実際、ステータス開示で見て見ると【呪い】となっていて、結晶付与はなくなっているが呪いはなくなっていない。
……一応、試してみるか。
「ちょっと、彼女の身体に触ってみても?」
「は、はい……」
リルルさんはどこか信じているみたいな表情で俺に頷いて見せる。
どうやら俺が彼女の身体を治す事を信じているようだ。
申し訳ないが、ここで一発で治るとは俺も思っていない。
とはいえ、改善される事を信じて彼女の身体に触――
「……っ!」
触ろうとした瞬間、俺とシャナさんとの間に電流みたいなものが走った。
それは俺の身体を蝕んでいき、俺は慌ててタイムリバースポーション――身体の状態を10秒前にまで戻すという特殊な水薬だ――を飲んだ。
あ、危ない。
どういう理屈かは分からないが、彼女から発せられた何かによってゾンビ取りがゾンビに、結晶取りが結晶になるところだった。
具体的に言うと、呪いが移りそうになった。
「……自己防衛機能か?」
明らかに呪いを完全に解呪されないように力が働いたように見えた。
……これもまた、体内魔力の循環の異常が原因なのだろうか?
そんな訳、あるか。
明らかに人為的なものに違いないだろう。
しかし、だとしたら誰が原因なのだろうか?
彼女、シャナさんはどうもこの村の天使族達に愛されているみたいだ。
こんな仕打ちをするような者がいるとは、到底思えないのだけれども。
あるいは、表面的にそう取り繕っているだけで、実は黒い事を考えていたり?
……分からない。
分からないけど、これは一筋縄ではいかなそうだぞ?
「……」
「先生?」
「……ああ、ごめん。ちょっと考え事を」
「その、やはり治療は難しいのでしょうか?」
「いえ、こうしてきた以上、最善は尽くすつもりです。多分放置していれば復活するでしょうけど、一時的とはいえ結晶は取り除けましたし」
「その……何が原因でこうなっているんでしょうか?」
「……」
魔力の異常が大前提として、って事だよな?
駄目だ、すべてが怪しく思えてきている。
「……もう少し、ちょっとだけ一人で見させて貰っても良いですか?」
とりあえず、ここは一人で見させて貰おう。
そう言う訳でとりあえずステラさんとリルルさんを追い出し、俺は改めてシャナさんの身体を見下ろす。
恐る恐る彼女の身体に手を近づけ、しかし先ほどのように反撃を食らわないよう細心の注意を払いつつ、そして――
「――お兄さん?」
「……ッ」
悲鳴を上げそうになった。
だって、件のシャナさんがいきなり目を開け、俺に話しかけてきたのだから。
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