第7話 アニエスの天使
ステラさんの戦い方に関してはもう、天衣無縫と言う言葉が相応しかった。
恐らく魔術によって強力な自己バフを行っているのだろう。
気づけば彼女は疾風の如き勢いで前方へと飛び出し、残像と剣閃を残して魔物を木っ端みじんにしていた。
完全に目で追う事が出来なかったため、その豊満なるおっぱいがぶるんぶるん揺れる様を目で収める事は出来なかった。
恐らくそんな事をしていれば間違いなく変態のレッテルを貼られるだろうし、むしろ良かったとも言える。
ただ、同時にあんな凄まじい勢いで身体を動かし剣を振るっていたら、そりゃあ身体にも負荷がかかるだろうなとも思った。
こりゃあ多分近いうちにまたマッサージを受ける必要がありそうだな、と思った。
そもそも前回は肩を揉んだだけだし、今度は全身のマッサージが必要かも。
とか思っている内に、ステラさんは魔物をすべて倒していた。
魔物達は塵となり、魔石を残して消え去っていた。
それらをリルルさんは回収し、そしてステラさんに「お見事」と拍手を送っていた。
「流石は聖騎士、圧巻の戦い方です」
「ありがと。でも、貴方だってこの程度の事は出来るでしょ?」
「私は魔術がメインなので、あのような無茶苦茶な動きは出来ませんよ」
「……で、アルトさん。貴方は本当になんて言うか、身体能力は普通なんですね」
いきなり話を振られて俺は焦った。
「え、っと?」
「私の動きを目で追えていなかったみたいなので」
「あ、ああ――そうですね。俺はあくまでマッサージ師だから、身体能力は本当に下の下も良いところですよ」
「ふぅむ……実は物凄い能力の持ち主で、それを隠しているとかは」
「いや、俺は後方支援がメインの人間ですから」
俺の言葉を吟味しているのかしばし黙った彼女は、それから「……分かりました」と小さく頷く。
「クレアの言った通りの人間なのですね」
「言った通りとは」
「人畜無害の、だけど気持ち良い事をしてくれるヒトと、言ってました」
「……言い方よ」
「ま、私はそういう気持ち良い事をして貰うつもりはありませんし! 貴方の手は借りませんが!!」
「そっすか」
「話はこれくらいにしましょう、妹が待ってます」
リルルさんにそう言われ、俺達は黙る事にするのだった。
それから俺達は徒歩で山の道を歩き始めた。
もしかしたらまた魔物と遭遇するかもと注意しながら歩いていたが、しかし運良く魔物とは遭遇する事はなかった。
そして、それからしばらくしてようやっと目の前に人の気配がする村のようなものが見えてきた。
石造りの建物がメインで、木々が豊富なこの場所にわざわざ石造りの建物を作る理由はなんだろうと意味なく考えてしまう。
そんな事を考えながら村の方へと近づくと、案の定衛兵らしき女性がやって来て、そしてリルルさんの方を見て「リルルか?」と声を掛ける。
「ええ、はい」
「帰って来たのか……シャナの為にか?」
「言わずもがなです」
「なるほど……で、そちらの方は?」
と、こちらの方を見てくるので俺は「初めまして」と会釈をする。
「一応、今回治療師としての役割を持って、リルルさんに随伴する形でこの村へと来ました」
「治療師、だと?」
俺の言葉にその人は渋い表情をする。
「……言っては悪いが、あまり腕が良いようには見えないな」
「良く言われます」
「まあ、治療を試すだけならタダだからな――ただ、変な事をしたらこの村の人間はお前を血祭りにあげるだろう」
「シャナさんは愛されているのですね」
「当然だ」
ていうか血祭りって怖っ。
絶対変な事出来ないじゃん、いやしないけど勘違いされるような行動も控えるようにしないと。
というか、本当にどんな人なんだろうな、シャナさんって言うのは。
少なくともリルルさんの妹だから、従ってリルルさんより年下なのは間違いない。
リルルさん年齢を知らないから子の思考は無意味だな、うん。
「で、そっちは――ああ、ステラか」
「ええ、お久しぶりですね」
「息災だったか?」
「ええ、まあ」
と、こちらをちらっと見ながら彼女は答える。「息災でした」
「まあ、こんなところで立ち話もなんだし、さっさと村の方へと入るといい――ああ、そうだな」
と、衛兵さんはにこっと笑い、それから意味ありげに言う。
「ヘンデルの村へ、ようこそ」
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