第6話 何故いる?

 リルルさんの妹さんは当然のように俺が拠点としている街ではなく遠方にある村で暮らしているらしいので、そこへは遠距離テレポートで移動する事となった。

 直接村にはテレポートする事は出来ないので、村の近くにある施設に飛んでそこから徒歩で向かう事となる。

 その間に魔物に襲われる可能性があるので何人かの護衛が必要。

 そこら辺に関しては完全にあちら側に任せる事になっていたのだが。


「お久しぶりですね、アルトさん」

「え、なんでいんの?」


 聖騎士の彼女、ステラ・リリスさんがいるのは何故?


「今日はよろしくね、リルル」

「ええ、頼りにしてますステラ」

「……なんで仲良さそうなんですか?」

「ああ、言ってませんでしたっけ。ステラは私の親戚で、彼女にも天使族の血が流れているんですよ」

「マジですか」


 聖騎士の意外な事実。

 まさか純粋な人間じゃないらしい。


「まあ、お陰で聖騎士内ではズルいだとかもっと相応しい人間がいるのではないかとか言われるのですけどね。まっ、全部力業で解決してますが!」

「力業?」

「実力行使とも言います」


 腕っぷしで解決しているらしい。

 脳筋かな?

 いや、なんて言うか彼女、そういう雰囲気というかどことなく「ポン」な感じがするし、いい意味でも悪い意味でも素直な感じなのかもしれない。

 それに巻き込まれなければいいのだけれども……


「で、今回はリルルの妹さん――シャナちゃんに対してマッサージを行うのが目的だとか」

「ああ、そうらしいですね」

「……変な事したら、容赦しませんからね」

「変な事とは」

「わ、私に何を言わせようとしているのですか、この変態っ!」


 何を想像しているのだろう。

 いやまあ、マッサージなので結局裸を見る事になるのは間違いないので、彼女のように勘違いするのもおかしくないとは思うけど。

 こっちとしては健康の為にするので、そのように思われるのは心外だとは言っておきたい。


「ま、良いけどね……兎に角、時間は有限なんだし、さっさと行きましょう」

「……そうですね」

「それじゃあ、早速移動しましょう――テレポート!」


 と、リルルさんがテレポートを発動すると同時に視界がグラッと揺れ、眩暈に似たものを感じる。

 一瞬目を閉じ、開けた時には既に景色が変わっていた。

 ……雪景色だが、しかし時期的に雪が降っているのには違和感を覚える。 

 と言う事は、山の上で雪が残っているって感じか。


「……ここは?」

「アニエス山脈です。知ってますか?」

「あー」


 知らないのですっ呆ける事にする。

 そしてどうやらそれを悟ったらしいステラさんは呆れたように説明してくれる。


「アニエス山脈は我々がいた街、ホワイトストーンの北側に位置する山脈です。見ての通り自力で登るのには向いてないので、こうしてテレポートで直接移動するのが基本となっています」

「なる、ほど」

「ともあれ、さっさと行きましょう。ここはやはり寒いです」


 そう言いながらステラさんは環境魔法を使って俺達の周囲に温かい空気を作ってくれる。

 流石な聖騎士、気遣いがしっかりしている。


「ここから徒歩で30分程の場所にあります――いつもは飛んでいくのですが、今日は貴方がいますから、普通に歩いて行きましょう」

「そういえば、ステラさんも天使族の血を引いているみたいだけど、翼は生やせるのですか?」

「いえ、私は無理ですね。辛うじて天輪は出せますけど、それくらいです」

「天輪って、出すと何かあるんですか?」

「魔術の威力が大体二倍くらいに上昇します」

 

 なにそれ凄い。


「まあ、私としては翼が生えていた方が移動時に便利なので、そっちの方が良いとはいつも思ってますが」

「……雑談はこれくらいにしましょう」


 と、そこでリルルさんが間に入って来て、それから腰にさしていた剣を抜く。


「どうやら、魔物がいるようです」


 彼女が言った通り、というか言った瞬間にだった。


 草の陰から飛び出してくる、黒い影。

 魔物達が、一斉に俺達に向かってその牙と爪を剥いて襲い掛かってきた――!

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