第5話 予想通りの結果
俺としては予想が的中して欲しくはなかったのだが、案の定というかなんというか彼女、ビアンカの警告は当たってしまった。
つまりは、怪我人が運び込まれてしまったのである。
俺はいつも清潔に保っているベッドの上に寝かされた怪我人の包帯にうっすらと血が滲んでいる事に頭を抱える。
これ、もしかしたらベッドそのものを変えないといけないかもしれないな。
「で、俺のここは治療室ではないと何度も行ったはずだと思うんだけど?」
そうぼやく俺に対し、一応友人である冒険者のアーサーが手を合わせて言ってくる。
「そうは言わないでくれよ、先生。マッサージ屋って言っても、先生はそっちの腕もしっかりしているじゃないか」
「人並みにな。別に大怪我を治すのは俺の力じゃなくてポーションの力だし」
俺は溜息を吐きつつ、エリクサーポーションとその他薬効のある液体を混ぜた特製の水薬を怪我人――今回は女性だった。亜麻色の髪が美しい。おっぱい――の怪我している部分にぽたりと垂らす。
するとぱっくりと開いていた傷がみるみるうちに塞がっていき、後には綺麗な肌と血の跡だけが残された。
……結構血を出していたみたいだし、そっちの処置もしないといけないな。
レバーを食えとは言えないし、血を作るのを助けるポーションも用意しないと。
とはいえ、怪我人の女性の呼吸は落ち着いているみたいだし、早急にしなくてはならない措置はこれでお終い。
「んじゃ、処方代を要求するけど、ギルドの方にした方が良いのか?」
「いや、俺が払うよ――いくらだ?」
「12万ゴールド……って言いたいところだけど、3万ゴールドにしておいてやるよ」
「い、良いのか?」
「その代わり、今後いろいろと更に融通してくれ」
「……ああ、ギルドの方にもそう伝えておく」
と、そこで怪我人の女性が呻きながらうっすらと眼を開く。
彼女に対しアーサーが「大丈夫か、リルル?」と声を掛けるが、彼女はまず俺の方を見て尋ねてくる。
「先生、ですか?」
「一応冒険者の連中からはそう言われていますね」
「でしたら、その――私の依頼を引き受けてくれますか?」
「……怪我人はまず自分の怪我を治す事を優先して欲しいんですが」
しかし彼女――リルルと言うらしい――が無理に起き上がろうとしていたので、俺は仕方なしに「話だけは聞きましょう」と譲歩する事にする。
「無理な事は無理ですからね?」
「ええ、分かってます……実は、その。私の妹を、救って欲しいのです」
「おい、リルル。良いのか?」
「良いんです――私はこう見えて、天使族の女なのですが」
ぱさり、と彼女の背中に純白の翼が降臨する。
頭部には輝く光輪が産まれていて、彼女が名乗った通り天使族である事を伝えてきた。
「……いや、そんな人物がどうして怪我を? 天使族って確か最強種の一つだったと思ったけど」
「私は半分が人間で、そして今回は自身の力の大半を他の者達の防御に回していました――まさかそこを魔物達が突いて来るとは思ってもみませんでしたが」
「魔族の連中がいたんじゃないですか? 普通、魔物にそんな弱点を突いて来るなんて芸当が出来るとは思えないし」
「ともかく、私の妹は、私と違い純粋な天使族ですが。しかし身体が産まれつき弱いんです」
「申し訳ないですけど……これはそこのアーサーにもさっき言った事だけど」
俺は言う。
「俺はあくまでマッサージ師で、医者じゃない。今回の治療もポーション頼りだったし、貴方の望みを叶える事は、多分、難しいよ」
「いえ、貴方こそ適任だと思います。何故なら、彼女に今、必要なのは――体内の魔力の循環を整える事なのですから」
「……」
確かに俺のマッサージを受ける事で体内の魔力の循環が改善されたという話は聞いた事があった。
俺としては実感がないので何とも言えない。
だから、俺としては了承しかねる話だった。
とはいえ。
「俺のマッサージにそういう効能があるらしい事は俺も知ってます。ただ、俺としても何故それが起きているのか理屈が分かっていない。だから、その彼女にマッサージを行っても何も起こらないという可能性も、一応頭に入れておいて欲しい」
「それでは――?」
「……ちゃんと依頼料を払ってくれれば、仕事だから引き受けます。それで良いなら」
「はい、はい! ありがとうございます!」
喜びながら何度も頭を下げてくる彼女に俺は「傷が開くかもだからあまり無理はしないでください」と言う。
さて、これはなんだか厄介な事になって来たぞ?
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