第4話 勝利
「これで勝ったとは思わなにゃいでください!」
なんかよく分からないけれども、マッサージを終えたらそんな風に叫びながらステラさんはすたこらさっさと帰って行った。
ど、どういう事だってばよ……
ちゃんとお金は置いて行ったというかむしろ多い金額を置いて行ったので、こちらとしては凄く反応に困る。
満足してくれたという事だろうか?
確かに凄く肩は凝っていたし、それを全体的に解すのには結構力が必要だった。
あれでは剣を振るうのにも違和感を覚えていただろうが、もう大丈夫だ。
筋肉をしっかり解したので、しばらくは自由に振り回す事が出来るだろう。
もっと言うのならば全身をマッサージすればそれだけで10歳は若返ったような気分になるだろうが、それはこちらが望むものではない。
提案しても良いだろうけど、それだと痛くない腹を突かれそうなので今回は止めておく事にした。
……ていうか、やっぱりというかなんというか彼女の肩こりの原因はおっぱいではなく聖騎士として剣を振るっている事が原因だろう。
実際、冒険者には彼女のような肩の凝り方をしている人は多くいたためすぐに分かった。
なので彼等と同じように同じような施術を行ったのだが、成功だった――のだろうか?
少なくとも筋肉は解し切ったし、大丈夫だと思うけど。
だけどすっごく怒っていたようにも見えたし、どういうこっちゃ。
あとで訴えられたら、どうしよう……
マッサージって、そんなに異界の文化なのだろうか。
ともあれ、一々気にしてもしょうがない。
今日も今日とて店を開き、人がやって来るのを待つ。
まあ、今日は予約が入っていないので完全に来客次第なのだが、しかし来ない時はとことん来ない。
なのでもしかしたら1日中暇になるかもしれない。
なんて思っていると、俺の予想を裏切るかのようにがちゃりと扉が開かれた。
何者かと思いながら「いらっしゃいませー」とにこやかに挨拶。
相手を見、思わず「げ」と呟いた。
「ビアンカ……」
桜色の髪に赤色の瞳。
煽情的な服装のその女性の名前はビアンカ。
ちなみに人間ではなく、サキュバスである。
「なんで来た」
「あら、客に対してそのような言葉を吐いても良いのかしら?」
「お前は半分うちのスタッフみたいなものでしょうが」
「ま、そうだわね――っと、はいこれ。まずはお約束のもの、持ってきたわ」
そう言って彼女は虚空から一本のボトルを取り出す。
てらりと輝くその液体はとある花から抽出した液体を煮詰めて作りあげたオイルである。
基本的にマッサージの時に使っているオイルで、リラックスする匂いがする上に、美肌効果もある。
特に女性に対して使う事が多いオイルだが、しかしこれはサキュバス族秘伝のものだった。
それを俺がどうして貰う事が出来ているのかは――まあ、過去にいろいろあったとだけ言っておこう。
「聞いたわよ、アルト。何でもあのステラ様をマッサージしたらしいじゃない」
「そうだけど……有名なのかあの人? 確かに聖騎士だとは名乗ってたけど……」
「有名も何も、ステラ・リリスは聖騎士のトップ、序列一位なのよ」
「え」
「知らないでマッサージしたのね」
「そんな凄い人がどうしてうちの店に?」
「知らないわよ、そんなの」
店に飾られていた花の匂いをすんすん嗅ぎながら適当に答えてくるビアンカ。
それから彼女が「ぱちん☆」と指を鳴らすと服が消え去り、俺の前に極上の肢体が露になる。
俺は額に手を当てながら言う。
「俺、男なんだけど?」
「もう見慣れたでしょ?」
「……そうだとしか言いようがないのが辛い」
「じゃ、早速マッサージしてちょうだいな」
「まあ、オイル分はしっかり働くよ」
施術室のベッドに寝転んだ彼女を見、溜息を吐きながら彼女から受け取ったボトルからオイルを手に取り、それをゆっくりと彼女の綺麗な背中につつーっと塗っていく。
「ん、んん❤」
「で。そっちはどうなんだ?」
「んんぅ❤ そ、そっちって……?」
「サキュバス界は今、どうなってるんだ?」
「……ん、そんな事、気になるの?」
「日常会話だよ、話せないなら別の話題にするけど?」
「んぁ❤ ……特にこっちは、んん、話すような事は、ないわぁ❤」
「そうか」
「あ、相変わらず鬼畜ねアルトはぁ❤」
なんかサキュバスらしく色っぽくてエロい声をされてこっちもアレがアレなので、手早く済ませる事にする。
彼女の場合、腰や太ももの筋肉が凝っている場合が多い。
なんでだろうね。
……考えないようにする。
とにかくさっさとマッサージを終えると、あれだけ艶やかな声を上げていたのに気づけば彼女はニコニコ顔でコップから水を飲んでいた。
凄い切り替えだが、これが出来ないとサキュバスは務まらないのだろう。
「ああ、そういえばアルト」
「なんだ?」
「どうやら最近、魔族が活発化しているから気を付けなさい」
「いや、俺基本的に店に引き籠っているから、そういう事とは無縁なんだが」
「貴方のソレはあくまで技術であって魔法ではない。それはそれで凄いけど、神聖視している人が貴方のところに駆けつける可能性があるとは思わない?」
「つまり、怪我人がやって来る、とか?」
「ええ、その通り」
「……一応エリクサーの在庫はあるけど」
「そこで回復薬とか出てこない辺り、結構羽振りが良いのね」
「こっちにもいろいろあるんだよ」
「それなら――」
と、彼女はいつの間にかこちらに近づいてきていた。
ちゅっ❤
いきなり頬にキスをしてきた彼女は、艶やかで色っぽい笑顔を浮かべながらこちらを誘ってくる。
「一発、ヤってく?」
「……ここはそういう為の場所ではないけど」
「サキュバスがサキュバスである所以、教えて上げるケド?」
俺の目の前で、彼女の尻尾がぴくぴく蠢き先端が「くぱぁ」と開く。
テラテラと輝く粘性の液体を滴っていた。
彼女の誘惑に、俺は――
「あはっ♪ 流石ねアルト❤」
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