第三話 共通した意識
霊媒師という職業について彼は占い師みたいなものだと言っていたが、僕が実際にやってみた印象から言うと、それは占い師というよりもほとんど役者のようなものだった。
それぐらい霊媒師という職業は高い演技力が要求される仕事だった。占い師も演技力が必要とされるのかもしれないが、その要求量は我々霊媒師と比べるとずっと低いに違いない。
僕は
僕が彼のもとで働き始めて最初の数年は見習いとして過ごした。いわゆる
霊媒師について、あるいは人生の生き方について学ぶうえで、彼はほとんど理想的な存在だった。
霊媒師としてのそこそこの知名度と実績を持ち、社会の
そして何より僕にとって
だから僕が霊媒師になるためにしたことといえば、ただ彼の組んだカリキュラムを疑わずに実行したぐらいだった。
彼のもとで僕は霊媒師を求める多くの人たちを見た。ほとんどが年寄りばかりだろうと予想していたけれど、意外にも若い客も多かった。
彼らはさまざまな理由から霊媒師を求めていた。ある者は単なる好奇心で、またある者は後悔から。
しかし彼はそれらの理由で客たちを差別せず、どんな客にも
『——我々は彼らに対して
もちろん当時の僕には彼が何を言いたいのかを理解することはできなかった。一体この人は何を言っているのだろうといつも
だけど後になって僕は気がついた。誠実であることと真剣に向き合うことは似ているようでまったく違うモノだということに。前者は自分の
そしてさっきも言った通り、自分以外の存在を
だから彼はせめて誠実であろうと
そしてそれを実践していたからこそ、彼が
しかし僕はその姿を見てなんだかひどく奇妙な感情に
初めは罪悪感だと思った。嘘つきは
でも、どこか違うような気もしていた。いちご大福にホイップクリームをかけて食べたときに覚えるような違和感が、そうした場面に
いったいこの感情の正体は何なんだろう。
僕がその正体を理解したのは、見習いとしての生活が二年目に差しかかる頃だった。
その頃には徐々に僕も
だから僕を霊媒師と勘違いしたのだろう。あるときひとりの客が
『——ありがとう。最後の言葉を聞かせてくれて、本当にありがとう』
僕はそのとき初めて僕を
あるいはこの時の経験があったからなのかもしれない。僕が霊媒師として生きていくことを本当の意味で決めたのは。
そうして彼のもとで五年を過ごした後、僕は彼から
独立することになった僕は海の見える小さな港町に事務所を構えた。僕ひとりでやっていけるかどうか心配だったけれど、幸いなことにそれは杞憂に終わった。
どうやら僕は霊媒師として生きていくのに必要な少しばかりの運と、死者を
彼のコネで何件かの依頼を達成するうちに評判を得て、そこから順調に実績を積んでいくことができた。
雑誌やネットニュースで紹介され、一度だけテレビに出たこともある。テレビといっても、霊媒師の
しかもそれだけでは飽きたらず、番組を盛り上げるための役者が用意されていて、僕自身ほとんど台本通りに喋るだけの仕事だった。
もちろん初めは断るつもりだった。そんな霊媒師を
番組が放送されると彼らはこぞって僕のことをインチキだ、詐欺師だなんだと新聞や雑誌に書き立てた。酷いものでは、僕を血も涙もない拝金主義者と非難する媒体もあった。
予期していた通りのこととはいえ、さすがに笑ってしまった。よくこれだけひとりの人間を攻撃するような内容の記事が書けるものだと感心した。あるいはライターという職業こそが拝金主義者なのではないかと勘違いしてしまいそうだった。
けれど記事の内容自体はそんなに間違っているわけじゃなかった。我々が霊を
だけど、そうだからといって非難される
幽霊の存在を信じたい者たちがいる。嘘でもいいから希望に
でも、
霊媒師という職業を本気で信じているからこそ、いたずらに精神を
彼女もそのうちの一人だった。
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