第22話 絶対に許さない(母視点)

 


 「薫、今大丈夫?」


母はいつになく優しく薫に声をかける。しかし、薫の返事はなかった。


 「薫、、、」


あまり病気にならず、育ってくれた私の最愛の娘たち。しかし、そんな私に珍しく学校から連絡があった。そして、それは私が最も聞きたくなかった報告だった。


 「すみません。薫ちゃんの担任の橘です。今お時間よろしいですか?」


 「はい。薫に何かあったんですか?」


 「それが、、、申し上げにくいのですが、薫ちゃんが誹謗中傷の書かれた紙を下駄箱に入れられていたらしく、今保健室で休んでいます。お家の方で休まれた方がいいと思い、お電話を差し上げました」


私は目の前が真っ黒になった。最愛の娘、薫。ほんの少し前まで男の子だった。急に女の子に変わってしまったけど、変わらずに、いやそれ以上に愛を注いできた。薫は3人の子供の中で最も優しかった。自分が怪我をしても私の心配をしてた。そんな優しい薫なら、たとえ性別が変わろうが学校でも上手くやれると思って送り出した。今朝も元気に学校へと送り出した、、、はずだった。


 そこからの私はあまり覚えていない。学校に行って、薫に会い、先生たちが必死に頭を下げながら、謝っていた。担任の橘先生は泣きながら謝っていた気がする。




 「薫、、、」


 薫の部屋に入る。薫は寝ているようで、まるで白雪姫のよう。もう、あまり入れてくれなくなった薫の部屋。いい匂いが漂い、物は少ないけど、そこは確かに薫の部屋だった。



 「私は何をしてるんだろう」


自問自答を繰り返す。目の前で眠る最愛の娘。生まれたその瞬間に一生守ると決めた。それなのに、守れなかった。なんて出来の悪い母親なのだろう。気づけば眠っている薫の目から涙が出ていた。それを拭うと、別の場所に涙がこぼれる。私のだ。泣く権利なんてないはずなのに。守ることができなかったのに。私は涙が止まらなかった、、、。


 そして、私は誓う。私の最愛の娘を泣かせる奴はたとえ誰であろうと許さないと。優しく、可愛く、気丈な愛しい私の娘を傷つける奴は絶対に後悔させてやると。私は母親なのだ。私が子供たちを守らずして誰が守るというのだ。


 「ごめんね、薫。ごめんね」


私は止まらぬ涙を拭うことなく、薫に謝った。


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