第11話 Happy christmas(11)

それでも



彼女が一生懸命に作ってくれたツリー型のクッキーが



いとおしかった。



「・・ごめんな、」



高宮はしんみりとして夏希に言った。



「え?」



「なんだか。 夏希を気持ちよく出してやれなかった、」



気を使ってくれた夏希の友人たちにも悪い気がした。



「そんなことないよ。 けっこう楽しかったし。 みんなでその結婚する子にプレゼント買って渡したの。 サキって言うんだけど、サキにはほんっと世話になっちゃって。 彼女、東京の実家から通っててね。 あたし、いっつもお金なくて。 彼女の家に泊めてもらったり。 ご飯ごちそうしてもらったり。」



夏希は学生時代の楽しい思い出に浸っていた。




ますます



高宮は彼女の大事な親友の結婚祝いのパーティーに



もっともっと



優しい言葉で送りだしてやれなかったことを恥じた。



「でも。 みんなでワイワイ、クッキー作ったりして楽しかったよ。 もうなんのパーティーかわかんなくなっちゃって、」



夏希は何でもなかったかのようにアハハと笑った。



「・・バカだな、おれ。」



高宮はそれと対照的に落ち込んだ。



「は? なんで?」



鈍い夏希は彼がどうしてそんなに落ち込むのかがわからなかった。




「プロポーズ記念日だとかさ。 こうしておれたちはいつでも一緒にいれるのに。 拘っちゃって。」




「それはあたしも・・そんなに隆ちゃんが思ってくれてたなんて、思わなくて。 反省したし、」



「いいんだよ。 記念日なんか。  形じゃないから。」



「隆ちゃん、」



その固い固いクッキーの端を折って、またポリポリと食べ始めた。



「うん、味はおいしい。」



ニッコリ笑う彼が嬉しくて。



「非常用の食料になりそうだよね・・」



夏希もそう言ってポリポリ食べ始めた。



「非常食・・」



高宮はそれがツボって吹き出した。




「ああ、それと。 コレ、『t』が抜けてるよ、」



高宮はクッキーに描かれた『Chrismas』の文字を指差した。



「は? t? どこに? なんで『クリスマス』にtがいるの?」



夏希は真面目にそれを凝視した。



「なんでって言われても。 あと。 『全力疾走』の『疾』は『失う』じゃなくて『やまいだれ』がつくんだよ、」



さっきのメモも取り出した。



「は? 『まやいだれ』?」



もう



彼女の調子があまりに



相変わらずなので



大笑いしてしまった。



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