『宇宙人柱』

やましん(テンパー)

『宇宙人柱』

 

 『これは、フィクションであり、おとぎ話です。』



 ひとばしら、とは、大きな、建設困難な建築物の完成を期するため、神や、見えざる神聖なものに捧げる生け贄のこと。



 西暦2千⚪⚪⚪年。


 地球上に誕生していた、巨大独裁的国家のリーダーは、新たなる外宇宙探査機に、人柱を入れることにした。


 それは、リーダーが主張する、神聖な宇宙に対する生け贄であり、最新型のコンピューターを見守る役割もあった。


 その人柱は、現実的には、死者でありながら、必ずしも、死者ではなかった。


 体は、宇宙探査機の一部に埋め込まれ、事実上のミイラであるが、脳は、停止しているわけでもない。


 いや、普段は、停止している。


 しかし、観測目標に近付くと、自動的に活性化され、コンピューターが行う観測を、見守るのである。


 そのときだけ、僅かに、意識が甦る。



 青い空。


 雲。


 太陽。


 すすきに揺れる月や、お饅頭。


 ラーメンや、ギョウザ。


 うた。音楽。バッハ。


 恋人。


 愛。


 愛、とは、なにか。


 ぼんやりとした、自意識は、明確には認識できない。


 動かすべき、体もない。


 触れるべき相手もいない。



 人柱は、コンピューターが地球に向かって、データを送るのを確認して、また、停止する。


 それだけの、なにもない存在だ。


 

 しかし、それは、すでに人類が、いないことは、知るよしもないのである。



        🛰️




 


 

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『宇宙人柱』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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