第5話 竜戦の終焉
(巫女様…巫女様)
純白の竜の声が聞こえる。目を開けるとそこには雲ひとつない空が広がっていた。息がしづらく、頭がボーッとしている。まるで脳に血がまわっていないようだった。
(気がつかれましたか?巫女様。)
(あぁ…)
脱力感からか声が出ない。
『オレは…、竜達は、どうなったんだ?』
周囲を確認しようと体を起こそうとするが、力が入らず起き上がれない。オレは仰向けになったまま、純白の竜の声を聞く。
(無理をなさらないで下さい。あれだけの魔法を使ったのです。反動があって当然です。)
(そうだぜ。まさか、俺たちを一瞬で殱滅しちまうとは、大した魔法だよ。まぁ、おかげで俺たちを洗脳していた奴らも体内にあった呪具も一掃できたがな。)
他の竜達の声も聞こえる。
(……殱滅。殱滅って事は、オレは貴方達を……。)
(えぇ。私たちは死にました。身体は、今、大地に、空に還ろうとしています。身体が無くなれば、この意識も無くなるでしょう。でも、これは巫女様のせいではございません。)
(そうさ。どの道、あのまま戦いが続いていたなら、俺らはみんな死んでいたさ。)
(あぁ、そうだな。…全ては、俺がアイツらの…黒マントの奴らの策略に嵌ってしまってせいだ。皆、すまん。)
(まぁ、操られてたのは、俺も一緒さ。黒竜様だけのせいじゃないさ。なぁ、地竜の旦那。)
(そうだぜ。俺たちは、全てを共有すると誓った仲ではないか。まぁ、ご婦人方には迷惑をかけてしまったがな。)
(そうよ。私は危うくアナタに殺される所だったのよ。…って、そういえばアナタ、巫女様の事も殺そうとしてなかった?)
会話から茶色の眼の竜に襲われた事を思い出した。
(あの時は、助けてくれてありがとうございます。)
(どういたしまして。でも、まさかあの時の人の子が巫女様だとは、思いませんでした。)
徐々に竜達の声が小さくなっていく。
(そろそろ、別れの時が来たようですね。)
(巫女様。私たちは、あと少しもすれば消えて無くなるでしょう。それが、力を持つ者の運命です。…ですから、最後にお願いを聞いていただけないでしょうか。)
(あぁ、何でも言ってくれ。)
相手が望んでいた事とはいえ、竜達を殺してしまった贖罪からか言葉が自然と出てきた。
(俺たちが消えた後に光る石ができる。それを俺たちの後継者に渡して欲しいんだ。)
(光る石……?)
(そうだ。我ら竜の長は、代々、その石をもって力を受け継いでいるのだ。)
(それと私の角輪を息子に渡して欲しいのです。私の角輪は、初代様の遺品です。どうか、よろしくお願い致します。)
(分かった。届けると約束するよ。)
オレは、竜達の願いを承諾した。竜達の声は更に小さくなっていく。
(あぁ、そうだ。礼と言うわけではないですが、俺達の遺品は好きに使って下さい。巫女様の魔法で使える物は限られていますが、役には立つ…はずで…す。)
声が途切れて聞こえる。
(地竜……。私たちの命にもついに時間がきたよう…ですね……)
竜達の声が1つ、また1つ消えていく。
(地竜と水竜は、逝ったようですね。2人の代わりにお別れの言葉を伝えさせて頂きますわ。巫女様、ありがとうございます。そして、さよ…うなら…。)
(あぁ、俺はこういうの柄じゃないから、後は任せ…るわ。)
(風竜…火竜…。)
純白の竜の哀しみの声が聞こえる。
(すみません…)
(何を謝る。巫女様は、我らの願いを叶えただけだ。ただ、それだけだ。……竜神様の時と同じように…)
(黒竜…。)
純白の竜の声も小さくなっていく。
(巫女様、私も皆のもとに逝きます。でも、気に病まないで下さい。私たちは、巫女様のおかげで親友を、愛する者を殺さなくてすみました。…感謝しております。お元気で………。)
竜達の声が聞こえなくなった。あの戦いが夢だったかのように、静かな時間が流れる。オレは、また1人になってしまった。何もない青い空を眺め、一つ息を吐く。そして、重くなった頭の中を整理した。
『竜…。オレが巻き込まれた戦いは、竜の長達の戦いだった。どうやら、黒竜、火竜、地竜が黒マントの奴らに操られた事で戦いになったらしい。竜を操るなんてできるのか?だが、確かにあの戦いで一方の竜は、理性を失っている様だった。黒マントの奴らの企みも気になるが、奴らはオレの魔法で一掃してしまったらしい。まずは竜達の遺品を届けてやろう。……って、しまった。竜の住処を聞いていなかった。まずは、竜の住処を探そう。
魔法…。スライムを食べた時に頭に入ってきた言葉の羅列は魔法だった。魔法といえば異世界の醍醐味だが、まず使い方を覚えないとダメだ。グングニルみたいな魔法は使えない。この世界を滅ぼしかねないし、使った後に体が動かなくなるんじゃリスクが大きい。とはいえ、他がどんな魔法か分からない以上、そうそう試し打ちはできない。魔法を理解し、制御する術を学ばないといけない。やる事は山積みだ。』
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