フィルムカメラ

 そこでラインを閉じ、日がな寝っ転げて熱を持ったベッドから起き上がり、手近の服に着替えた。ガンガンにかけていた冷房を労わりの気持ちでピッと消し、嬉しげに機械音を出して吹き出し口を収めるのを見届けたのち、サンダルをつっかけて坂を下る。あかい目が見つめている。この街の観光名所になっているタワーが、山ひとつ向こうからひょっこりと突き出している。夥しい数の窓が電灯で黄色に塗りつぶされている。坂の半ばで街を見返すたび、いつもそこに鎮座している鈍色。そいつは、夜になると六つのあかい目をひらく。王蟲だ、とおののくあの台詞が毎度脳裏を掠める。

 航空障害灯、と呼ばれるらしい。


 フィルムカメラを愛用する人間は、撮ってから現像するまでの時差をタイムカプセル、と呼んで賞賛する。ふと、

「時間差あるの良いな」

 と言われて

「でしょ」

 と応じてしまったが、帰国後その足で写真屋に向かったのでほぼ即日で現像を受け取れてしまった。開いてみると設定を間違ったのか、十枚程度白とびしてしまっている。萎え。画面をスクロールしていくと、案の定ピントのずれた、瞳の写真が出てきた。ぼやけた睫毛と目。なんだか虫みたいだな、と思いつつフリックして次の写真を表示させる。友人たちにはあえて懐かしくなる頃に送ってやろう。


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