雑魚寝の夏

永里茜

 八畳間に五人が寝転ぶには無理しかなく、寝返りひとつにもあいまを縫うようにこなさなくてはならず、すこし寝相の悪い右となりが時折障子を打つ、左となりは暑そうにうなる、ふたつの体温にはさまれた狭い自分の寝どこには熱が籠もって、固定された姿勢のせいで関節はにぶく凝り固まっていて、意識は覚醒とうたたねのあいまに沈んでは浮かび、くるしみのなかにありながら、ねむっているひとびとの寝息やいびきや寝言が耳に入っては、なにかやすらかな気分すらも感じられ、鳩時計がまぬけなおとですすむ時間を告げてゆく。あまりにひととの距離がちかいので、その接触におちつけず、寝室のクイーンベッドのうえに、さんにんでねむるには大きくなりすぎた自分が父母にはさまれ、ただでさえ耐えがたい暑さに加えられてゆくもうふたりぶんのひとはだの熱、その苦しさがよみがえって、入り交じり、夏の夜更けの記憶をあらたに生み出していた。

 日はい出さずとも空気に明度をあたえていて、暗闇のなかの寝息たちは個体に紐づいてゆき、はっきりとは判別のつかない視界は粒子状でありながら、みっつの背中が転がっている空間を描き始めていた。ひぐらしのこえ。空気は少しずつたわんで、湿気た重みを持ってゆく。破けた障子紙。背後のもうひとりは起き出しているようだけれども、寝床のなか、たぬきねいりを続けたくって、目をつむって、からだを脱力させ、ゆるく息を吸う。

 夏。

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