五、ひっかけるつもりが……

 男達が去った後、恒司つねじ安堵あんどの表情を浮かべた。そして女に話しかける。


「大丈夫か?」


「あ……ありがとうございます……」


 女はぺこりと頭を下げた。続いて店主の男も礼を言う。


「いやぁ、助かりました。あなたのおかげで大事にならずに済みます」


「気にすんなって」


「ですが……どうして助けてくれたんですか?」


「いや、たまたま見かけたんでな……。それでつい……」


 照れた様子の恒司に、女はクスリと笑って言った。


「ふふっ、優しいんですね」


「べ、別に……優しくなんか……」


 恒司は頬を染めた。すると女は、店の中を指差して提案してきた。


「よろしかったら、中にお入りになりませんか?」


「え……いいのかい?」


「もちろん!お代はいりませんよ。……以前も、来ていただいたことがありますよね」


「……気づいていたのか」


「はい。実はずっと覚えてまして……。またお会いしたいと思っていたんです」


(おいおいマジかよ……)


 恒司は驚いた。まさか向こうが自分を覚えていてくれるなど、思ってもいなかったからだ。


「それじゃあ……遠慮なく」


「はい!……お父さん、お兄さんにきつねうどん出してあげて」


「はいよ」


 女は厨房に行き、男は恒司のためにうどんをで始めた。やがて出されたうどんを食べてみると、とても美味しかった。


「どうですか?」


「あぁ……やっぱり美味いな」


「よかった!お口に合って……」


 女は嬉しそうにしていた。恒司は、その笑顔を見て胸が高鳴るのを感じていた。


(……やばいな、これは……)


「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は小夜さよと言います。……あなたは?」


「恒司……」


「恒司さんですね。よろしくお願いします!」


 恒司は、なぜかまともに目を見ることができずに、視線をらす。そして、ぼそりと言った。


「……あのさ、また来てもいいかな」


「はい!大歓迎ですよ」


 恒司は照れくさそうにしている。すると、その様子を見ていた小夜の父親である店主は、娘の肩に手を置いて言った。


「はは、恒司さんはもうすっかり小夜のとりこになったみたいだね」


「ちょっ……親父さん!!」


「いいじゃないか。お似合いだと思うよ」


 小夜は顔を赤くしてうつむいている。恒司もつられて赤くなった。


(あー……ちくしょう……)


 それからというもの、恒司は毎日のように店に通うようになった。最初はうどん目当てだったが、いつしか小夜に会えることも楽しみになっていた。

 ひっかけるつもりが、自分が彼女にひっかかってしまったようだった……。

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