四、助け舟とうどんの美味しさ

 次の日。キツネ姿の恒司つねじは、再び昨日のうどん屋に行ってみることにした。


(……別に、あの女が気になるとか、そういうんじゃねぇけど……)


 心のどこかで昨日のことを思い出しながら、恒司は店の前まで来た。だが、様子がおかしいことにすぐ気づく。


「……何だ?」


 見ると、気の弱そうな男が大勢の男に囲まれていた。慌てた様子の男の側には、昨日の女がいた。おそらくこちらが店主だろう。


「だから……困るんですよ……。うちはちゃんと許可を取ってやってるんですから……」


「うるせぇ!!この店は潰すって決まってんだ!」


「そんなこと勝手に決められても……」


 どうやら男たちは、何かの業者らしい。話の内容を聞く限り、営業妨害をしに来たようだ。恒司は呆れてため息をついた。


「はぁ……馬鹿じゃねぇの……」


 そのまま素通りしようとしたが、女の怯えたような姿を見て、放っておけなくなってしまった。


「おい、あんたら!弱い者いじめなんて情けないとは思わねぇのかい?」


 青年に変化した恒司が声をかけると、男の一人がにらんできた。


「ああ?誰だてめぇ?」


「俺か?俺はこの店で飯を食ったもんだが……」


「なんでぇ、冷やかしにきたのか?だったら失せな!」


 男の言葉を聞いて、恒司は鼻で笑った。


「ふん、まあいいさ。ところで、お前らはこの店のうどんを食ったことがあんのか?」


「何言ってんだこいつ?」


「まあ聞けよ。ここのうどん、本当に旨いぜ?なのに、潰しちまうってのは勿体もったいないとは思わねぇか?」


 恒司の問いかけに、男たちは一瞬戸惑った。さらに恒司は畳み掛けるように言う。


「想像してみろよ。熱々のうどんに、出汁の効いたつゆ。そこに大きな油揚げが入っててな……それをズルッと音を立てて食うんだ。最高だぜ?……どうだ、食いたくなってきただろ?」


 そう言われて、男たちの顔色が変わった。どうやら食欲を刺激されたらしい。


「確かに……それは美味そうだな……」


「食ってみてぇな……」


「そうだろう?どうだい、ここはひとつ、うどんに免じて引いてくんないかね?」


 恒司は困ったような顔を作って言った。すると、男たちは決まり悪そうに互いに目配せする。


「ちっ……仕方ねぇな……。行くぞ!」


 そして、諦めたのかそう一言残し、男たちは去って行った。

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