第5話 テレパシー?

「やば……教科書忘れた……」


 それは、ある日の授業でのことだった。


(なんか転校生に聞くのも悪いしな~でもな~)


 凡子は小声で伊圭男に尋ねた。


「池目く~ん、本当に申し訳ないんだけど、教科書一緒に見てもいいですか~?」

「…………」


 伊圭男はすっ、と教科書を凡子も見えるように動かした。


「ありがとう~」


 凡子は机を伊圭男の机に近づけた。そして、衝撃を受けるのだった。


(エッ、池目くんめちゃめちゃ手綺麗すぎない? イケメンって手も綺麗なの?)


 すらりと伸びた指、白すぎないきめ細やかな肌、綺麗に切りそろえられた程よい長さの爪。女子の理想であった。思わず目が飛び出るほどじっくり観察する凡子。


「…………」


 すると、伊圭男は音もなく手を引っ込めた。


(ああ……って何残念がってるの! 変態か! いや、変態だ!)


「ここ、テストに出すのでしっかりノート取ってくださいね」


(はっ、聞いてなかった! ああ、待って、まだ消さないで……!)


 しかし、時すでに遅し。黒板に書いてあった文字はきれいさっぱり消されてしまった。


(あとでひーちゃんに見せてもらおう……)


 すると、伊圭男は凡子にノートを差し出した。


「え……?」


 ノートには綺麗な文字が並んでいた。先程の黒板を写したもののようだ。


(これ受け取ったら池目くん、ノート取れないんじゃあ……)


 伊圭男は机の中からもう一冊ノートを取り出し、凡子に見せた。


(まさかのノート二冊持ち?!)


 伊圭男はノートを凡子の机の上にそっと置き、取り出したノートに書き始めた。


(感謝……!)


 そして、凡子はマッハで書き写し始めた。


「ん?」


 今会話してたっけ……? なぜか「会話」が成立していたことに凡子は不思議に思った。もしや心の中を読まれた……? まさか、ね。


(まあ、いっか)


 細かいことは気にしない凡子であった。そして、伊圭男のおかげで授業に遅れずに済んだのだった。

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