第4話 共通の趣味

 ある日の昼休み。トントン、と伊圭男は凡子の机を指で叩いた。


「…………」


 凡子は伊圭男の言いたいことを読み取ろうと、その顔をまじまじと見つめた。眉間に皺が寄っているのにも気付かずに。灰色がかった瞳がまっすぐ凡子を見つめ返していた。すると、伊圭男はBelles Fleursベル・フルールという五人組の女性アカペラグループのCDをすっ、と差し出した。凡子はこのグループの大ファンである。


「え、ベルフルの新曲! 池目くんベルフル好きなの?!」


 伊圭男は頷いた。


「えー! 本当! ちょっと見てもいい?」


 凡子は丁寧にカバーを開けた。色とりどりの花のイラストがあしらわれたディスクが姿を現した。


「すごい……今回も盤面が凝ってるなあ……。ていうか、どうしたの、これ? もしかして自慢?」

「ブ……」

「ブッブー! 不正解!!」

「普都男!」


 なんと、普都男が伊圭男の口を塞いだのだ。


「なんであんたが答えてんの」

「まあまあ、細かいことは気にせずに。それより、伊圭男は凡子にCDを貸そうと思ったんだよな?」


 伊圭男は口を塞がれたまま頷いた。


「え、貸してくれるの? いいの?」


 解放された伊圭男は再び頷いた。


「『遠慮すんな!』……だってさ」

「ていうか私がこのグループ好きなの知ってたの?」


 伊圭男はスマホを取り出して指差した。


「『スマホカバーがベルフルだったから、そうなんじゃないかと思って。合ってるみたいで良かった』だってさ」


 よく今の動作でそこまで分かったな……と、思う凡子だった。


「…………」

「お、そうだな。購買いこう」


(ちょっと待って。今なにもしてなかったよね?!)


 そうして、二人は歩き出した。


「悪い、助かった」

「いいって、いいって」


 遠くでそう言うのが聞こえ、凡子は何となく怪しいと思いつつ、二人が去って行くのを見届けた。

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