その34 カラオケとカ○ピス
陽が歌ったその曲は彼女曰く『神ソング』らしく、アニメ事態は『このアニメを見たら人生が変わる神アニメ!』らしい。
(人生が変わるBLアニメって何だよ?!)
そのBLアニメを熱く語る陽を尻目に、BLに興味がない3人は心の中で突っ込みを入れていたのであった……。陽が3曲目を歌い終わり、次は誰が歌うのかという話になったところで、今度は卯月が立ち上がった。
「じゃあ、私がいくね」
彼女は嬉しそうに微笑むと曲を入力して、早速マイクを握る。そして流れて来たイントロに合わせて歌い出した。その歌声は美しく澄んでいて、聴いていた人達は一瞬にして引き込まれていく……
その歌は、アニメに疎い彩音でも聞いたことのある有名なアニメの曲で、曲名もタイトルだけなら知っていた。18禁エロアニメの歌と思ったが、TPOはわきまえているようだ。
やがて、曲が終わると同時に大きな拍手が起こったので卯月がペコペコとお辞儀すると席に着く。そんな彼女に彩音が興奮しながら語りかける。
「卯月ちゃん、凄く歌が上手だね」
「ありがとうございます♪」
彩音の褒め言葉に、照れ笑いを浮かべる卯月であったが、次の瞬間打って変わって暗い表情になりポツリと呟く。
「聞かせるお友達はいませんけどね……」
「……」
その一言を聞いて彩音達は何も言えなくなってしまった。
そのどんよりした空気を振り払うように、彩音は卯月にこう訴えかける。
「卯月ちゃん、私達はもう友達だよ!」
「彩音ちゃん~~」
「私と菫さんは(同人作家の)同士なだけで、(変態の)友達とは違うけどね」
「陽ちゃん!」
「酷いよ~! 陽ちゃん!」
陽の発言に対して、二人は抗議の声を上げるが冗談なのは解っていたので、すぐにクスクスと笑い出す。
「彩音ちゃんは、やっぱり優しいね…。あのね、彩音ちゃんに見て貰いたいものがあるの!」
卯月はそう言うと、小さなリュックからタブレット端末の入ったケースを取り出すと、タブレットを操作して、彩音に画面を見せてきた。
「なっ!!?」
その画面を見た彩音は思わず赤面して声が出なくなってしまう。そこには、本屋で見た18禁百合漫画のようなエッチな女の子の絵が描かれていたからだ。
しかも、それは彩音をモデルとした― いや、彩音であろう黒髪ポニーの少女がドロリとした白濁液を掛けられて恍惚とした表情をしており、口の中もその白い液体でいっぱいになっているシーンである。しかも、フルカラーで描かれているので、とても生々しい…
「こっ これは… 一体…??」
顔を真っ赤に染めながらも、何とか質問を捻り出す彩音に対し、卯月は笑顔のまま答えた。
「昨日ログアウトした後に、彩音ちゃんとお友達になれたと思ったら、もう興奮が収まらなくなって、彩音ちゃんを想いながら描いていたら止まらなくなっちゃって、気付いたらこうなっていたの~♪」
変態― もとい卯月が満面の笑みでとんでもない発言をしてきたので、彩音は自分の耳が信じられなくてもう一度確認してみる。
「えっと…… この黒髪の少女は… 私なのかな…?」
「“彩音ちゃん”をモデルにした限りなくそっくりな“彩乃ちゃん”だよ~」
「それほぼ私だよね!?」
その事実に彩音が突っ込むと、陽と菫も驚きの顔で彼女達のことを見つめてきて、何事かと彩音と卯月が見ているタブレットの画面を覗き込んできた。
(百合以外の)エロ画像に免疫のない菫は赤面するが、陽は表情一つ変えずにこう感想を述べる。
「いや~、こいつは見事に汁まみれだね~」
18禁BL漫画製作者の陽は、自身の作品でも白濁まみれの汁まみれのキャラをよく描くらしく平然と感想を口にしていた。
一方で卯月の方はというと、そのイラストを見ながら鼻息を荒くし興奮気味になっていた。
「彩音ちゃんの― じゃなかった… 彩乃ちゃんのこの綺麗な黒髪やお口を汚しまくっていると興奮が抑えきれなくて、描いている時はもうずっっっと心のチ○コはギンギンだったよ~!」
「うん、とりあえず、年頃の女の子なんだから、その表現やめようね……」
彩音は冷静に突っ込みを入れるが、興奮した卯月の暴走は止まらず画面を操作して二枚目を見せてくる。
「彩音ちゃん! このセリフ読んでみて!」
「それは… ちょっと……」
二枚目は一枚目と同じ絵であったがセリフが書き足されており、変態は彩音にそれを音読するように要求してきたが、当然彩音は卑猥なセリフだと考え断る。だが、そうではないらしい…
「ああ~、……。エッチな絵と勘違いさせちゃったみたいだね。違うよ~、誤解だよ~。ちゃんと読んでみて」
卯月の言葉を聞いて、彩音は恥ずかしいと思いつつも覚悟を決めて、ゆっくりと読み始めた。
「えー っと… ”「陽君のカ○ピス、濃くっておいしいよぅ」”?」
彩音が読み上げると卯月は大興奮し、カ○ピスが何の隠語か知っている陽や菫は、思わずむせかえる。
「二人共、どうしたの?」
その状況に、彩音の頭にはハテナマークが浮かぶ。
呼吸を整えた陽は、保護者として卯月に抗議を通り越した恫喝を行う。
「おい、この変態! 何ウチの純粋な彩音ちゃんにエロいこと言わせてんだ!? 殺されたいのか!? 彩音ちゃんにエロいこと言わせていいのは、私だけだ!!」
「陽ちゃんもダメだよ!!?」
陽の発言に対して、彩音が突っ込んだ。
「しかも、竿役はTS化した私だし…! すぐに消せ!」
陽のその言葉を聞いた卯月は涙目になりながら反論する。
「違うよ~。これは本当にカ○ピスだよ~。リアル陽ちゃんが意地悪なんだから、絵の中の陽君も意地悪して “悪戯”で、彩乃ちゃんに濃いカ○ピスを掛けても不思議じゃないよね?」
「確かに、陽ちゃんなら悪戯でカ○ピス掛けるかもしれないね」
彩音は思わず納得してしまう。
「「ねぇ~~」」
そして、卯月と声を揃えて同意する。
「おい、ダメポニー。何その変態にあっさり騙されて、あまつさえ共感してるんだ? そんなにカニ漁船に乗りたいのか?」
陽が彩音の発言に対してツッコミを入れたが、彩音は慌てて首を横に振る。
「3枚目を見たら、カ○ピスだって解るよ~」
卯月はそう言うと、タブレットを操作して彩音に手渡した。
そこには、上半身裸で白濁まみれの彩乃が描かれており、表情はもちろん恍としており、瞳をトロンとさせて肌は興奮しているのか赤みがかっている。しかも、今回は同じく半裸のTS化した陽君らしき人物も描かれていた。
そして、セリフはこう書かれている。
“「陽君のカ○ピスで、身体中ベトベトだよぉ」”
「セリフでカ○ピスって書いてるからって、言い逃れ出来ると思ったら大間違いだぞ!?」
陽は激怒するが、卯月は負けじと言い返す。
「でも、カ○ピスだよ~。陽君の手に容器を持たせているし…」
「だったら、なんで容器を黒塗りしてんのよ!」
「容器って黒くなかったかな~」
「黒くねえよ!!」
陽は突っ込みを入れつつ、卯月の手にあるタブレットを奪い取ると
「友達のエロ画像を描くなんて、ご法度なので消します!!」
無慈悲に3枚の画像を消去する。
「うぅ~」
その光景を涙目で見つめる卯月であった…。
気弱剣術少女のVRMMO奮闘生活 土岡太郎 @teroro
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