その33 オフ会






「「「2時間後に、店の入口で!」」」


 陽、卯月、菫は決意と希望に満ちた表情で、同人販売店の中に入っていく。

 店の前で1人残された彩音は、さてどうしたものかと考える。


 一人でいるのは寂しいし、何より心細い。そこで誰かの買い物に付いて行ってみる事にしたのだが、問題は誰にするかである。


(陽ちゃんは18禁BLコーナーだから却下… そうなると、卯月ちゃんか菫さんだけど… 卯月ちゃんも18禁コーナーぽいから、菫さんが無難だけど… あまり話したことが無いから気不味いし……)


 そこまで考えて、結局話しやすい卯月がワンチャン普通の本を買う可能性もあることに気付き、そちらに賭けることにしたのだった。


 店内に入るとそこには、飢えた狼のような眼をした者達が、獲物を求めて徘徊している。


 そんな危険な場所に、一人きりでいるのは危険すぎると判断した彩音は、卯月を探すために店内を見回ると、彼女は男性向け18禁コーナーで、男達に混じって真剣な眼差しで購入する本を吟味していた……


 ので、彩音は回れ右して、菫の元に向かうことにした。


 すると、彼女は百合漫画コーナーを物色していたので、ここなら居心地が悪くなそうと思い、彩音は勇気を出して菫に話しかけることにする。


「あっ あの… 菫さんは何を見ているんですか?」

「あ、彩音さん。見ての通り、私は百合漫画を買いに来たの」


 突然話し掛けられたにも関わらず、菫は笑顔で質問に答えてくれたので、彩音はホッと胸を撫で下ろして、彼女の側にいることにした。


 すると、彼女が手に持っていた百合漫画のタイトルが目に入る。それは表紙に複数の女の子が描かれているものだった。


「へぇ~、これが百合漫画ですか」


 彩音が興味深そうに見つめていると、横から視線を感じた。見てみると、菫は何故かキラキラとした目をしている。


「彩音さん、百合漫画に興味があるんですか?!」


 その勢いに圧倒されながらも、彩音は何とか返事をした。


「嫌いじゃないです。絵は可愛いし、お話がほのぼののんびりしているし、何より見終わった後にほっこりできるのがいいです」


「そう! そうなんです! 私も同じ感想です! 読んだ後に心が癒やされるんです! 彩音さんとは仲良くなれそうだわ!!」


 そう言うと、いきなり両手を握られてしまった。まさかの展開に彩音は驚きつつも、嫌ではないのでされるがままにする。


 そして、その光景は周囲から見れば”リアル百合漫画”であった。

 彩音は可愛い絵柄の作品を手に取り、内容を確認してみる。


 ―が……


(これってキスシーンだよね……? しかも、舌まで入れて… えっ!? こんな事までするの…!?)


 内容お女の子同士で、イチャイチャチュッチュッどころか、エッチなことをするかなり過激な18禁百合漫画であった。


(これ私の知ってる百合漫画じゃない!!)


 彩音は顔を真っ赤にしながら、すぐに本を閉じると元の場所に置く。


 これ以上は精神衛生上よろしくないと判断すると、別の作品を見てみる。だが、どの百合漫画も過激なものばかりだったため、とてもではないが最後まで見ることはできなかった……


 何故ならここは18禁百合コーナーだったからだ。

 すると、その様子を見て隣にいる菫が声を掛けてくる。


「彩音さんは、こういうの苦手みたいね」

「はい……」


「まだ18歳ではないですからね。まあ、陽ちゃんと卯月ちゃんは購入していますけどね… 」

「あの二人のことは… そっとしておくことにします……」


「それが賢明ですね。さて、それじゃあ18禁ではない百合漫画コーナーにいきましょうか?」

「えっ!? いいんですか?」


 正直、18禁コーナーに居るだけでも恥ずかしかったので、彩音としては嬉しい提案だったが、菫に気を使わせてしまったと思い申し訳なく感じてしまう。


「大丈夫よ。ここでの欲しいモノはもう選び終わって、丁度これから行こうとしていたところだから」


 そんな彩音の気持ちを察したのか、菫そう言って優しく微笑む。

 姉もそうだが、年上の余裕からくる年下への気遣いと優しさに触れ、彩音は自分もそんな大人になりたいと思った。


 それから二人は、百合漫画コーナーでお互いに好きな作品のオススメを紹介し合ったり、語り合ったりして楽しい時間を過ごす。


「そろそろ時間ですね。彩音ちゃん、入り口に行きましょうか?」

「はい」


 菫は腕時計で時間を確認すると、約束の2時間が経っていたので、彩音に声を掛ける。

 彩音も自分の携帯で時刻を確認した後、店の入り口に向かう。

 そこには既に陽と卯月の姿があり、二人は両手に戦利品の入った紙袋を持っており、彩音と目が合うなり紙袋を持った手を上げて合図を送ってきた。


「二人共遅いよ!」

「ごめん、お話に夢中になっていたの~」


 陽の注意に彩音は両手を合わせて謝ると、彼女は「しょうがないなぁ」と言った感じで、笑みを浮かべると昼食を食べることを提案してくる。


 彩音がファミレスを提案するが、陽と卯月が本を買いすぎてお金が無いというので、近くにあるファーストフード店で食事を済ませることにした。


「じゃあ、次はカラオケに行こう!」

「いいですね」

「うん、いこう~」


 食事を終えると、陽が今度はカラオケに行こうと提案してきて、菫や卯月が賛成してくる。

 だが、彩音はカラオケにあまり行ったことがないので、少し緊張してしまう。


「彩音ちゃん、行きたくない?」


 すると、彩音の様子に気付いた卯月が心配そうに声を掛けてきた。


「私あまりカラオケに行ったことないし、流行りの歌にも疎いから…」


 彩音は不安そうに答えると、それを聞いていた陽が笑顔でこう言い放つ。


「大丈夫だよ! ここにいる者で流行りの歌を歌える陽キャはいないからね。アニソン祭りだよ!」


 こうして、カラオケに行き先が決まり、4人は駅近くのカラオケ屋に到着すると、受付をして部屋に入る。そこで皆それぞれ歌いたい曲を入れるとマイクを片手に持ち、準備を整えた。


「それでは! 最初は私からいくね!!」


 陽は元気よくそう言うと、BLアニメの主題歌を歌い始めた。



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