その32 ヘルバード戦
道中のゴブリンは、エイプリルの加入のおかげで難なく撃破でき、一行は山頂付近まで到着する。リベンジ相手のヘルバードは、前回同様薬草ポイントの上空で獲物を待つように旋回しており、アカネ達は戦闘前にHPとMPの回復を行う。
「戦闘は今までと同じで良いんだよね?」
アカネが確認のために質問すると、エイプリルとハルルもそれぞれ肯定を示す言葉を返してくれる。
「私がタゲを固定するまでは、攻撃を抑えてね」
「アカネちゃん、振りじゃないからね?」
「もう、言われなくてもわかってるよ!」
ハルルが念押しのように注意をしてきたので、アカネは子供扱いされたような気分になりムキになって言い返すと、ハルルが反論してくる。
「メインクエでやらかしたのは誰だったかな?」
「うぅ~、それを言われると何も言えない……」
アカネはメインクエストでの事を突かれてしまうと、言い返しようが無い。エイプリルが加わったとは言え、前回苦戦した相手ではあるので油断できない。そのため、万全の状態にしておきたいのだ。
「アカネちゃん、私が頑張ってタゲを取るから大丈夫だよ~」
そんなアカネの様子を見て、エイプリルが優しく声を掛けてくる。ハルルと違っていつも優しい事を言ってくれる彼女に、アカネは古い親友のような安心感を抱く。
「ありがとうね、エイプリルちゃん」
「ううん、いいんだよ~♪ 頑張ろうね~♪」
その二人のやり取りを見て、微笑ましい光景だと笑みを浮かべるアテナとバイオレット。
四人の周りにピンク色のほんわか緩い空気が流れており、
(あれ…? このPT緩すぎない?!)
それを見たハルルは一抹の不安を感じてしまう。これは、エンジョイ勢とガチ勢の差かも知れない。
「みんな行くよ!」
「お~!」
ハルルの号令に皆から緩い感じの返事が返ってくるが、彼女は銃を構えて空中にいるヘルバードを射撃する。
「こっちへ来なさい! 挑発の光!」
戦技が発動してエイプリルの全身が輝くと、ヘルバードはハルルからエイプリルに突っ込んでいく。彼女はそこから誘引の光を使用して更にタゲを固定するために、嘴攻撃をタワーシールドで防ぐとランスで突く。
エイプリルはタワーシールドで攻撃を受けた後、今度は攻撃せずに盾の構えをといて、ヘルバードが攻撃態勢を取ると構え直す。
このゲームでは、盾で攻撃を防ぐとSTを消費するのだが、盾を構えたままの状態だとSTの回復が遅く、STが0になると盾で攻撃を防ごうとしても、防ぎきれずにダメージを受けてしまう。そのためSTの回復速度を上げるためのテクニックである。
エイプリルは、戦技を使いつつヘイトを稼ぐための行動を繰り返して、敵のターゲットを自分に向けるように動く。
「二連撃!」
「マジックショット!」
「魔法の槍!」
そのおかげで、アタッカーの三人はその攻撃力を思う存分発揮することができ、前回よりも簡単にヘルバードを撃破することができた。
これが先人達の構築したMMORPGの役割の成果である。
「やった~! リベンジ成功だね!!」
「タンク役がいるとやっぱり違いますね」
「ふぅ~。上手くタンク役がこなせてよかったよ~」
アカネの喜ぶ声を聞いて、バイオレットも嬉しそうにしている。そして、エイプリルは嬉しそうな声で胸を撫で下ろす。アテナも嬉しそうだ。
「はいはい、みんな嬉しいのは解るけど、ヘルバードがリポップする前に薬草ポイントを調べてね」
ハルルは勝利で浮かれる一同に、パンパンと手を叩きながら薬草ポイントを調べることを促す。リポップとは一定時間で倒した敵が復活することで、調べる前に復活するとまた戦闘しなければならなくなる。
そのため一同は、リポップする前にポイントを調べるとそのままファストトラベルで街に戻る事にした。
街に帰ってクエストの報告をして、報酬を受けるとアテナがアカネの服の裾を引っ張ってくるので、何事かと思い振り返る。どうやら、もう眠くてお休みしたいようだ。
「もう、解散しようか?」
「えっ? でも、まだ23時だよ?」
アカネの言葉を聞いたエイプリルが驚いた表情で質問をしてくる。
「いや、もう今日は解散しよう」
ハルルは目端の利く子なので、アテナが目を擦っていることに気が付き、解散に賛成する。
他のメンバー達もアカネの意見に同意するようにうなずく。
「じゃあ、解散しようか? みんな、お疲れ様でした~♪」
「「「「「おつかれさまー!」」」」」
アカネの挨拶に全員が元気よく答えると、解散となった。
解散後、ログアウトして30分後、陽からメールの着信があり内容を見てみる。
そこには、エイプリルのリアルメアドが添付されており、彼女から「明日、バイオレットとエイプリルとオフ会をする予定だけど一緒にどう?」とのことであった。
「二人とリアルで会えるんだ… 会ってみたい!」
彩音は二つ返事でOKすると、明日の朝9時に迎えに行くということになり、明日が楽しみになる。
「さてと、明日に備えて寝よう」
彩音はベッドに入り眠りについた。
―が、二人とリアルで会えると思うと嬉しくなって、遠足を明日に控えた小学生のように中々寝付けず、結局寝たのは日付が変わる頃だった。
次の日、朝起きてから急いでシャワーを浴びて着替える。
約束通り迎えに来たハルルと一緒に、待ち合わせ場所の秋葉原に向かうと既に二人が待っていた。
二人共ゲームアバター通りの姿なので、すぐに分かたがバイオレットは、化粧のためかいつもより大人っぽい雰囲気を纏っており、一瞬誰だかわからなかった。
「私以外は、現実では初顔合わせだから、自己紹介しようか」
陽がそう言うと、まずは彩音から自己紹介する。
「はっ 始めまして… は、おかしいのかな? 天原彩音です、17歳です」
緊張しているのか言葉遣いが少しおかしくなっている。
「では、次は私ですね。<
菫は白いブラウスに黒のフレアスカートを履いており、手には小さな鞄を持ち清楚な印象を受けた。
「始めまして、彩音ちゃん。<
卯月は、Tシャツとキャミワンピというゆるふわコーデで、背中に小さなリュックを背負っている。
「はい、これで全員の自己紹介が終わったね。それじゃあ、早速だけど行こうか」
「どこへ? 喫茶店?」
陽の先導について行きながら彩音が質問をすると、陽・菫・卯月が声を揃えてこう答えた!
「「「もちろん、同人誌の販売店だよ!!」」」
「あっ はい…… 」
彩音はこのオフ会に参加したことを、少し後悔し始めた……
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