その26  パーティーの問題






 そこからは、グダグダであった。


 ヘルバードは飛翔して、近接攻撃が届かない上空に移動するためアカネの刀は届かず、ダメージによる敵対心を稼ぐこともできないので、ヘルバードのターゲットが振らつくことになり、手当たりしだいに攻撃され鬼回避力のアカネ以外は皆ダメージを負うことになった。


「マジックショット!」

「魔力の槍!」


 魔力の槍は、その名の通り魔力で作り出した槍状の物体を、相手に飛ばす魔法で魔力の矢より破壊力は高いが飛距離は短いのが欠点だ。


 だが、タゲが固定できないので、”やられる前にやる!”作戦を実行中のために、バイオレットはダメージ覚悟で高火力魔法を叩き込む。


 まあ、作戦とは名ばかりのヤケクソなだけだ。

 この作戦で一番割りを食っているのは、そのダメージを回復するアテナであり、彼女は先程からヒーラーとして大忙しだ。


「天原天狗流… 敷波!」


 アカネはヘルバードがハルルの頭を突っついている後ろから、しきりに打ち寄せる波のように連続で袈裟斬りを繰り出す。


「あたりはしない!」


 すると、デスバードはくるりと180度振り向くと、超反応したアカネはすぐさま後方に跳躍して、間合いを取ると反撃を回避する。


「逃げ回れば死にはしない!」


 アカネは軽快な足捌きで後ろに移動しながら、回避に専念することでヘルバードの攻撃を回避し続けた。


 それはソロとしては完璧な立ち回りであるが、タンク役としては落第点の動きである。

 攻撃せずに回避に専念すれば、当然攻撃を続けるハルルとバイオレットにターゲットが向くからだ。


「こら~! ヘタレ剣士!! ダメージ覚悟で攻撃しろ~!!」


 そのためハルルから罵声が飛ぶ。


「そんな意地悪な事を言うハルルちゃんは、頭を突っつかれちゃえ~! でも、アテナちゃんは、お姉さんが守るからね~」


 アカネはハルルに言い返しながら、アテナには優しい言葉をかける。

 そんなやり取りをしている間に、ヘルバードはついにHPが尽きると地面に落ちて、光となって消滅した。


 もう1段難易度が上のクエを受けていれば、敵のレベルも上がるので全滅していたかもしれない。


 ―ピロン♪

 <経験値を1000手に入れました>

 <ヘルバードの嘴 ヘルバードの羽を手に入れました>


「やったー!」

「ふぅ……」

「何とか… ですね… 」


 ヘルバードを倒した事で、みんな安堵の声を上げる。

 アカネは嬉しさのあまりハルルに抱き着こうとするが、手で額を抑えハルルはそれを拒否した。理由は当然……


「アカネちゃん。戦闘中に”頭突っつかれろ”とか言ってたよね?」

「えっ!? ……言ったかな~ そんなこと~ 戦闘に夢中で覚えてないな~」


 アカネはハルルから視線を逸らすと、吹けない口笛を吹く真似をして誤魔化す。


「とりあえず、町に戻ろうか? 正直どっと疲れたよ……」

「そうですね」

「賛成ー!」

「こくこく」


 ぐだぐだ戦闘によって。疲弊したパーティーは薬草ポイントを調べて、クエスト目標をクリアしたから、ファストトラベルで町に帰還する。


 オープンワールドなので、山の頂上からは遠くの山や草原などの景色が見渡せるのであるが、その絶景を楽しむ余裕は今の彼女たちには無かった。


 町に帰ってきて、クエストクリアの報告をすると、バイオレットとアテナのレベルが上がり、早速ポイントを振り分ける。


 その後、アカネのマイルームで今回の反省会を行うことにした。


「まず、アカネちゃんは今回の報酬で得たお金で、戦技を購入すること」

「うっ…… はい」


 ハルルはビシッとアカネを指差すと、アカネはバツが悪いのか顔を伏せる。


 戦技とはMPを消費して、通常攻撃より強力な攻撃を繰り出せるスキルで、アカネが技名を言って放っているのは、あくまで天原天狗流の剣技であった。


 当然システムに無い技なので、通常攻撃として処理されているのでダメージに加算はない。


「アカネちゃんは、戦技をうまいこと天原天狗流の技に組み込んで、攻撃力を上げること!」

「わ…… わかったよ。できるだけ頑張ってみる!」


 アカネは拳を強く握り締めながら決意を固めるが、それが出来るなら今までにやっていると内心思っていた。


 だが、アテナの「そんな事出来るんですか? 素敵…」というキラキラとした眼差しに気付くと、


「おっしゃーーー! 萌(燃)えてきたーーー!!」


 アカネのやる気が燃え上がった。


「私も新しい銃か銃戦技を手に入れるよ」


 ハルルは思案顔を浮かべながら、呟くように言う。


「では、私は魔法ですね」


 バイオレットの言葉に、アテナも「私も」という意味を込めて、頭をコクコクと縦にふる。


「でも、一番の問題はタンク(盾役)の存在だよね…」

「そうですね…」


 ゲーマーのハルルとバイオレットには、自分達の強化だけでは今回のような戦闘結果の根本的な解決になっていない事は分かっていた。


 いくら火力を上げても、タンク役が敵を引き付けてくれないと、その力が発揮できないからだ。


 頼みにしていた回避盾(アカネ)は、ヘタレすぎて役に立たないことは、今回の戦闘で立証されたので別のタンク職を探す必要があるだろう。


 だが、タンク職は重要なロールであるが、地味なために人気がなく、ヒーラー(回復職)と共に中々見つからないというのが現状である。


 プレイヤーに人気なのは、やはりアタッカーと呼ばれる攻撃職で、現にここにいる4人のうち、3人はアタッカーだ。


 ハルルは大きなため息をついた後に、嫌々そうこう呟く。


「不穏位だけど… あの娘を誘うしか無いか… 」


 言い終わった後、ハルルはもう一度ため息をつく。

 どうやら、彼女にとっては余程誘いたくない相手のようだ。


 そのハルルの様子を見たバイオレットは、その人物に心当たりがあるのか同じく曇った表情になる。いつも穏やかな表情のバイオレットには珍しい事だった。


「そうですね……。あの娘なら問題ないと思いますが…… はぁ…」


 バイオレットが諦めた口調で同意すると、アカネが不思議そうな顔をしている。

 ダメダメな自分が失敗しても、優しくしてくるバイオレットがここまで落ち込む相手は誰なのかと疑問を持ったのだ。


「二人ともそんなに、誘いたくない相手って…… 一体誰なの?」


 アカネが驚いた様子で聞くと、そんな幼馴染を見たハルルの表情が一変する。


「そうだ… そうだよ! 私達にはアカネちゃんがいたじゃない! ねぇ~ アカネちゃ~ん。お願いだから、私達のパーティーのために… タンク役勧誘のためにくれないかな!?」


「えっ? 私?」


 アカネは突然、自分に振られて驚く。


「うん… 何かわからないけどわかったよ! 私に出来ることなら、何でもするから任せて!」


 一瞬アカネの脳裏に嫌な予感が走るが、パーティーの… みんなの力になりたいと思い二つ返事で引き受けることにした。


 そして、もちろん次回酷い目に遭うことになる。

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