その21 ボス戦開始






「お姉ちゃん達はどうするの?」


「ナオシゲさんとA.Lさんは、ここなら安全だから少しでも寝不足にならないように、このまま寝かせておいてあげようよ」


 アカネの問いにハルルが、二人を気遣った対応を提案する。


【ArksVR】は一定時間操作されないと自動で電源が切れるようになっており、寝転んで使用しているので、安全に朝まで眠ることが出来るだろう。


 なんだかんだと思いやりのあるハルルだからこそ、アカネは彼女を信頼しきっているのだ。


「じゃあ、ボス戦行くよ? みんな準備はいい?」

「待って、ハルルちゃん!」


 ハルルの言葉の途中で、アカネは声をあげて制止するとアテナに目を向ける。

 彼女はアカネの意図に気がつき、少し待つことにした。


「アテナちゃんは眠くないの? 大丈夫?」


 ナオシゲの親戚ということは、アテナもリアルは外国人なので、寝落ちの可能性があると心配になったアカネが声をかけたのであった。


「大丈夫… です… 」


 アカネの予想とは裏腹に、アテナは小さな声で答えながら首を横に振る。

 すると、ハルルがアカネを手招きして呼び寄せると、彼女にだけ聞こえるような声で念の為に釘を差しておく。


「いい、アカネちゃん? もし、アテナちゃんが寝落ちしてしまったら、回復役不在となってHP回復は自分でやるしか無くなるんだからね。だから、敵の攻撃と現在HPには気をつけてね。フリじゃないからね!?」


「まかせてよ!」


 アカネは少しドヤ顔からの親指を立ててからのサムズアップで答えた。


「バイオレットさん…。この子、絶対やらかすからフォローお願いします」

「酷い! 全然信用されてない!!」


 その返しを見たハルルはため息をついた後、バイオレットにフォローを頼み、その光景を見たアカネはショックを受ける。


 しかし、それはそれである意味いつも通りとも言える風景なのである……。


「では、ボス戦に行くよ!」


 ハルルの掛け声と共に全員が武器を構えて臨戦態勢に入る。

 ボス部屋の入口に立つと、ボス戦が初めてのアカネは緊張した面持ちで、部屋の中にいるボスモンスターを見据えていた。


(あれがここのボスかぁ…。トゲトゲいっぱいで強そう……)


 部屋の奥にいる佇むボスは、オークのボス個体でレベルは20相当。肩パッドと兜にはトゲが沢山付いており、両手には大斧を持っていた。


 レベル15の6人パーティーなら、NPCの協力もあるのでそれほど強い相手ではないが油断できない。


(でも、頑張るのよ、私! アテナちゃんに良いところを見せて、頼れるお姉さんだって思って貰うんだから!!)


 アカネは自分が年上の姉を頼っているように、自分も年下のアテナに頼られる存在になりたいと思い、自分を鼓舞していた。



 彼女が決意を固めていると戦闘前のイベントが始まる。


「グオォッ!!」


 ボスはまず大声で吠えて威嚇してきた。


(ひゃう!? 怖い…!!)


 その演出にアカネとアテナが竦む。製作者冥利に尽きる反応だ。この二人はホラーゲームをプレイしないほうが良いだろう。


 そんな二人を尻目に、ボスはイベントを進行させる。


「グハハハ! キタナ ニンゲンドモ! マショウセキ ハ ワタサンゾ!! オマエタチハ ココデ コノオレニ コロサレルノダ!!」


 アカネとアテナがボスの雄叫びにビクついている間に、ボスは更に喋り出す。


「コロシタアトハ コマギレニシテ ソテーニシテ トマト デ アジツケシテ クッテヤル!!」


 そこまで言うとボスは再び雄叫びをあげる。

 ビクつく二人の横で、ハルルとバイオレットは平然とした表情で会話する。


「ポークチャップと掛けているのでしょうか?」


「外人さん得意の皮肉ジョークだね。因みにポークチャップとはアメリカが発祥とされる豚肉料理で、ソテーした豚肉に主にトマトケチャップで味付けした料理である!」


「突然、どうしたの!?」


 いきなり解説を始めたハルルに、ツッコミを入れるアカネ。

 おかげで、アカネは我を取り戻して気持ちを立て直すことが出来た。


「さあ、アカネちゃん。今からNPCが出てくるよ。見たら、きっと驚くんじゃないかな?」

「えっ? どういう事……?」

「それは見てのお楽しみだよ♪」


 ハルルの意味深な発言にアカネは首を傾げつつも、ボスの方を注視する。

 すると、アカネの横を黒髪のポニーテールを靡かせながら、女性が通り過ぎていく。


「えっ…!?」


 その姿を見たアカネは、思わず驚きのあまり息を呑む。


 女性は白色の道着に紺色の裁付袴たっつけはかま、手には黒の手甲、足には黒のブーツを履いており、腰には大小の刀を差している。大刀の方は少し刀身が長く野太刀か大太刀と思われる。


 そして、その女性の顔は彩音と初音を足して2で割った感じで、凛とした印象を受ける美しい女性であった。


「お姉ちゃん…? それとも私…? お母さんにも似ているかも…」


 アカネはその女性の後ろ姿を見ながら、自分の知っている誰かに似ていると感じていた。しかし、それが誰なのか解らない。強いて言うなら…


「天音様……?」


 彼女は無意識に呟いた。

 女性の頭上には<Thukine(月音つきね)>と表示されている。


「まさか、私以外にもここまで辿り着いているなんてね……。仕方がない。先にアイツを倒した者が魔晶石を手に入れる。それでいいわね?」


 そう言い放つと、月音は大刀を抜いてボスに向かって駆け出した。


「さあ、ボス戦開始だよ!!」


 ハルルはそう言うと喜々とした表情で、ライフルの射程距離まで駆けていく。



 月音はトゲトゲオークに近づくと、軽快なサイドステップで敵の左側へ回り込み、大刀を斬り上げる。


「天河天狗流… 狐月!!」


 彼女が放った斬撃は、三日月のような軌道を描くと、オークにダメージを与える。

 そして、反撃を受ける前に素早く後方にジャンプすると、今度は右側へと移動し一瞬で間合いを詰めると剣を横一線に薙ぐ。


「天河天狗流… 廻転!!」


 月音の連撃により、オークはダメージを負い怯むが、直ぐに反撃に移る。


「グガァッ!」


 オークは斧を振り回しながら、月音に攻撃を仕掛けるが、彼女は全てその驚異的なスピードで回避する。


「あれって…… 天原天狗流?!」


 アカネは月音の剣技を見て驚愕する。何故なら、彼女の剣技は自分が使用する天原天狗流にそっくりだからだ。




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