その12 謎の監視者(ストーカー?)
平日は学校とその後の剣術の稽古があるため、彩音がログインできるのは、その後の夕食までの時間と寝る前までの時間となる。
そのため平日のプレイは、レベル上げが主になった。
だが、そのおかげで彩音ことアカネのレベルは僅か5日で15に達しており、STとDEXとAGIにポイントを振るという”当たらなければ、どうということはない!”ビルドにしている。
これは低レベル帯が上がりやすいというのもあるが、アカネのプレイヤースキルのおかげでもあった。
トラディシヨン・オンラインでは、戦闘補助をオフにして完全マニュアルにした場合、プレイヤースキルがもろに反映されレベル差10を簡単にひっくり返すことができ、彩音のように現実で武術を習得してそれを活かせる者なら、レベル20差でも相手次第では勝つことが出来る。
このシステムが、体を動かすことが苦手なプレイヤーの不満となり、世界初のフルダイブ型であるにも関わらずこのゲームのプレイヤーが100万人という微妙な数字である一因であった。
アカネが戦闘を熟すに連れて、戦いへの恐怖心が薄れていきレベル10以上の敵を相手にしても、継戦できるためレベル上げが捗るようになったからだ。
豆腐メンタルの彼女から恐怖心が薄れた理由は、ズバリ痛みが無いからである。痛くないのでこれはゲームだと認識でき、そうなれば命の危険が無いとなり、戦闘への恐怖心と緊張感が薄れていったのだ。
だが、彼女達には新たな問題が浮上した。
「次レベルが上ったら、STRにポイントを3つ振っておいたほうがいいよ。刀はSTR8無いと装備できないからね」
「うん……」
ハルルは、少し上の空で返事をするアカネに気づき首を傾げる。
「どうしたの? 上の空だけど何か悩みごと?」
「3日前から、私達のことを遠くから見ている人がいるの」
「えっ!? ホント!?」
「ほら… あそこに… 」
その相手に気づかれないように、アカネは目線で背後の少し離れた場所に設置されている木のオブジェクトの影から、こちらを見ている人物を指さす。
確かにそこには何者かが立っていた。
それは身長168cmぐらいの女性で、髪の色は茶色のセミロング、年齢は顔の上半分を隠す仮面を装備しているのでわからない。まあ、仮面をしているので怪しい人物なのは間違いない。
「最初は気のせいかなって思ったんだけど、3日前から視線を感じるようになって……」
「明らかに怪しいね」
「そうなんだよね……。ちょっと怖くて……」
アカネの話を聞いてハルルは、その女性の方にチラリと目を向ける。女性はこちらが気づいた事に気がついたのか、慌てて身を翻して木陰へと姿を隠すがしばらくすると再び顔を出してきた。
(ああ… そういうことか… )
ハルルはその様子を見て、直様あの人物の正体に気づく。
すると、意地悪な笑みを浮かべて、アカネとその人物に聞こえるように、態と大きな声でこのような事を言い始める。
「アカネちゃん、大丈夫だよ! MMORPGには、ああいう”変態対策”のために【GMコール】という通報手段があるんだよ! 方法はオプション画面から~ 」
そう言いながら、ハルルはメニューを操作してオプション画面に切り換える。
オンラインゲームには、付き纏い行為やセクハラ行為、迷惑行為などの犯罪行為が行われた場合に、GMと呼ばれる運営スタッフに知らせる事ができる通報システムがあり、運営スタッフが問題解決してくれるのだ。
すると、木の陰から仮面の女性が慌てて、仮面を外しながらこちらに駆け寄ってくる。
「待って! 待って! 私よ! 私! 初音よ!」
仮面の下から現れた顔は初音であった。
「初音おねえちゃん!?」
(うん、知ってた)
驚くアカネと読者の声を代弁するハルル。
そんな二人に対して初音は、自分が見守っていた理由を語り始める。
「MMORPGを二人(9割彩音)がプレイしているのが心配で、お姉ちゃんは二人(主に彩音)のことをずっと観察していたのよ。だって、可愛い彩音ちゃんが変な男どもにナンパされるかもしれないし……」
(過保護すぎる……)
初音のあまりの彩音愛っぷりに、陽は苦笑いを浮かべてしまう。
「心配してくれるのは有り難いけど…。でも、どうして仮面を付けて遠くから見ていたの?」
彩音の問いかけに初音は、真剣な表情になると自分の思いを語り始めた。
「それはね。頑張ろうとしている彩音ちゃんの近くに、私が居たら彩音ちゃんの成長が遅くなるんじゃないかと思ったの。だから、遠くから見守るだけにして、困ったら助けようと思ったの」
「そうだったんだ……。お姉ちゃん、ありがとうね」
彩音の言葉を聞いた瞬間、嬉しさの余り満面の笑顔になる初音。
そんな自分を思ってくれる姉に、今度は妹が心配して質問を投げかける。
「それより… お姉ちゃん、大丈夫なの? そっちは早朝の5時くらいじゃないの? 寝なくていいの?」
アカネが心配するのも無理はない。日本の現在時刻9時20分で16時間の時差があるため、初音の方は早朝5時20分であり、睡眠不足が心配されるからだ。
心配する妹に、初音は笑顔でこう答える。
「彩音ちゃん、大丈夫よ。お姉ちゃんには見るだけで、元気が出る魔法のアイテム(彩音の水着写真)があるから!」
「お姉ちゃん! それイケナイお薬じゃないよね!?」
アカネがドン引きしてツッコむと、初音は「違う、違う」と首を横に振る。
「あっ そうそう… それで思い出したけど… 陽ちゃん、ちょっと… 」
「えっ 自分っすか?」
初音が陽を手招きして、自分の近くへ呼ぶと小声でこんなことを囁き始めた。
「あの水着写真のデータなんだけど…、他にもあるなら私に全て送信した後に、消去すること。いいわね?」
「アレ以外には無いッス」
その返事に初音は疑いの目で見てくるが、本当にあれ一枚しかない。さしもの陽もその姉のご機嫌取りのために親友の水着姿を何枚も撮る事に罪悪感があったからだ。まあ、保身の為に一枚は盗撮したが……
すると、初音は残念といった表情になり、溜息を吐く。
「そうそう、陽ちゃんにこれを預けておくわ」
初音はインベントリを開くと、トレード画面を開きアイテムを一つ選択するとそれを陽に渡した。それは【打刀】で最初期の刀系武器であった。
「折を見て彩音ちゃんに渡してあげて。シミターでは天原天狗流の技を100%で使えないからね。それにこの先、必ず必要になるわ」
「わかりました」
その言葉に満足すると、初音は笑顔になって妹の方へと向き直る。
「じゃあ、流石にヤバいから私はそろそろ現実に戻るわね。二人共頑張ってね」
初音はそれだけ言い残すと二人に手を振りながら、ログアウトしていった。
そんな姉を見送ったアカネは、気を取り直すとハルルに向かってこう言う。
「よし! じゃあ、レベル上げを再開しようか!」
「そうだね!」
二人は改めて目的を確認すると、狩りを再開する。
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