その11 GM(初音)とCEO(変態紳士)(少し修正)
彩音が初めて【トラディシヨン・オンライン】にログインしていた頃―
残業を続ける初音は、陽から3Dスキャンデータと共に送られてきた妹の盗撮水着写メをスマホで見ながら、“ハァハァ”していた。
(彩音ちゃん… ハァハァ… 半年見ない内に成長したのね… ハァハァ…)
すると、そんな彼女に後輩が声をかける。
「GM、すみません。CEOにこの書類を届けてくれますか? 今日中に目を通してほしいのですが……」
至極の時間を邪魔された初音は、心の中で”チッ”と舌打ちすると大人の働く女性として笑顔で「いいわよ」と答え書類を受け取るとオフィスを出て行く。
(まったく、彩音ちゃんを見ている時間がないじゃない! 彩音ちゃんの写真を見て癒されようと思ったのに!!)
初音は不機嫌な表情のまま廊下を歩く。
訴訟大国アメリカでは、変態紳士の博士と女性社員の接触は大変リスクがあるために、基本メールではなく書類の場合は彼女が橋渡し役となっている。
本来なら、男性社員が担うのが一番問題にならないのだが、博士の手綱を握れるのが彼女だけなので、監視と修正を兼ねてこのような役割を毎回任せられていたのだ。
初音は博士の部屋の前まで来ると4回扉をノックする。だが、博士からの反応はないので、もう一度ノックするがやはり反応はない。
「アイツ…… 」
いつもの事とはいえ、彼女はため息をつくと呆れた様子で、「入ります」と断りを入れてから部屋の中に入る。
すると、博士は耳に大きなヘッドホンをはめ、目の前のPCモニターを見ながら厭らしい笑みを浮かべており、初音の入室に全く気が付いていなかった。
たまに「デュフフ」と笑っているので、どう考えても仕事をサボっているように見えるが、彼女は”もしかしたら””万が一”仕事かもしれないと思い直して、仕事内容を確認しようと近寄り彼の背後に立つと画面を覗き込む。
そして―
「やっぱり、サボりじゃない!」
「ぐおぅ!?」
手に持っていた書類を丸めて棒状にすると、彼の頭に叩き込む。
「初音、いきなり何をするんだい?」
叩かれた箇所をさすりながら文句を言う彼に対して、初音は1時間前に見せた冷たい目で睨みながら、淡々と彼の問いに返事を返す。
「”何をするんだ?”じゃないわよ!? 仕事もせずに、エロ動画鑑賞だなんていいご身分ね?」
画面には美女が、そのたわわなモノを揺らしながらビーチで遊んでいる映像が映っており、どう見ても仕事とは関係のないエロ動― いや【紳士動画】であった。
「さっ さぼっていたなんて… しっ 失敬な! これは【おっぱいビーチバレーエクスタシー】のキャラの参考にと思って、見ていただけだから! 仕事だから!!」
確かに博士は【バット(隠語)】を露出させていないので、参考に見ていたという反論も一応成り立つが、彼女の冷たい目は変わらなかった。
「ああ…… あの“エロビーチバレー”ね…… 」
「エロバレーって… せめて、”おっぱいバレー”と言ってくれ」
「呼び方なんて、どうでもいいのよ! 開発は凍結すると決めたはずよ?」
【トラディシヨン・オンライン】は未完成状態でサービスが開始されており、アビリティやスキルも未実装のモノが多く、何ならシナリオも途中までしか実装されていない。
その理由は会社の経済的問題で、売上げ欲しさにそんな状態でサービス開始をするしかなかったからだ。世界初のフルダイブ型MMOでありながら、プレイヤーが100万人しかいないのは、この未完成なところが一因であった。
そのために、社員一同毎日残業を繰り返して開発を進めて、実装内容を増やそうとしているので、“エロビーチバレー”こと“おっぱいビーチバレーエクスタシー”開発に割いている余裕が無いのだ。
「だから、今そんなモノを見る事はサボりになるのよ!」
そんな初音の言葉を聞いて、博士は“しゅん”となって落ち込む。
それはそうだ。彼が【ArksVR】を開発した目的は、仮想現実空間でエロい女の子達と組んず解れつしたいという欲求のためで、その目的が遠のいたのだから彼のモチベーションが下がってしまうのは当然だったのだ。
そんな博士に対して、初音は励ましの言葉を投げ掛けずに、無言で彼に折りたたみナイフを投げ付ける。もちろんゴミを見るような冷たい目で。
「無言で自裁を勧めるのは辞めてくれ!」
博士は冷たい目を向ける初音にそう突っ込むが、内心ではその目にゾクゾクしている自分がいる。
「じゃあ、もうサボらないでくださいよ」
「はい……」
初音は、博士の書類を机に置いて彼に釘を刺すと、踵を返して部屋を出て行く。
ここまで読んだ読者様の中には、こう思った人もいたであろう。
「初音だって、仕事せず妹の水着写メ(しかも盗撮)を見て、ハァハァしていたじゃないか! サボっていたじゃないか!!」
と……
だが、その事については彼女の気持ちも解ってあげて欲しい。
彼女は大事な家族や妹と離れて、遠い異国の地で暮らしている。そのため大切な妹の成長を確認したいのは当然であり、決してエロ目的で見ていたわけではなく、あくまで妹の成長を確認して、安心したい… そう! この行為は【姉妹愛】【家族愛】なのだ。
この長い言い訳を聞いて、更にこう思った読者様もいるだろう……
「初音の妹を思う【姉妹愛】【家族愛】は解った…。でも、それは仕事中にすることじゃいないよね? やっぱ、【サボり】だよね?」
と……
――そのとおりです!
日本時間23時―
可愛い動物の動画に癒やされた彩音は、昼間ゲーム内で戦ったオーガの事を思い出しながら、眠りにつこうとしていた。
(対峙していても、お婆ちゃんやお母さんほどの圧は感じ無かったな…。ゲームのキャラだからかな…?)
オーガがゲームキャラのしかもモブキャラというのもあるが、師範と師範代の二人と比べればそう感じるのは仕方がない。
(対人戦だとまた違ってくるのかな… )
そんな事を考えながら、ベッドの中でウトウトし始めたその時、不意にメッセージ受信を知らせる音が鳴り響いた。
(こんな時間に誰からだろう? あ、陽ちゃんからだ)
メールを開くとそこには、<彩音ちゃーん、今日はお疲れ~ (^▽^)/ 明日も一緒にゲームしようねぇ~ (*´∀`*)ノ>と書かれていた。
ネット掲示板愛用者の陽は、絵文字より顔文字を愛用している。
(また明日ね~)
彩音は可愛い動物の絵文字を添えて返信すると、目を閉じて夢の世界に入っていくのであった。
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