その6  二人のご先祖様





 彩音が目の前に展開された半透明のウィンドウを見ていると、<フレンド>と表示された場所に“!” 記号が点滅しており、その部分を指で触れると<Haruru(陽)>の名前が表示されている。どうやら、これが陽のキャラ名のようだ。


「ここをタッチして、フレンド認証すればフレンドになれるよ」


 彩音は陽の指示通りに指先で触れ承認ボタンを押すと、<Haruruさんとフレンドになりました>と表示される。


「よし、これで彩音ちゃんとのフレンド登録完了だね。次は…… キャラの名前を決めようか?」


 ステータス画面のキャラネームは空白となっていて、そこに触れると名前の入力欄が表示されたので、彩音は暫く考え込むと文字の入力を始めた。


「”Amane”… アマネって、彩音ちゃんが以前話していたご先祖様?」

「うん、天音様のように活躍したいと思って… 」


 ”天原天音あまはらあまね”は、天才剣士と呼ばれた彩音の先祖で、女性でありながら村を襲う悪党撃退など数々の武勇伝を残しており、彩音にとって憧れの存在だったのだ。


 そんな彼女を目指して自分も強くなりたいと思った彩音は、同じ名前をゲームキャラクターにつけようと決めたのである。


「私は彩音ちゃんには天音さんより、ほらもう一人幕末の頃に強いご先祖様がいたじゃない? あの人の名前の方が合っていると思うな」

 

朱音あかね様の事?」

「そう! その朱音さんだよ」


 ”天原朱音あまはらあかね”、動乱の幕末に生きた天音の再来と謳われた天才剣士である。彼女は孤高の性格で一人黙々と修業に打ち込み、剣術の修行に人生を費やすほど、とにかくストイックな性格だったらしい。


 だが、真相は重度な人見知りで他人と接する事が苦手だったために、剣術に打ち込んでいただけであった。その事実を知る者は誰もいないと本人は思っていたが、周囲の人々は察しておりこうして語り継がれている。


 ある日、京都で不逞浪士が暴れていると聞いた朱音は、「京都の困っている人達を助ける!」と意気揚々と旅立ったが、3日後に心細くなって涙目で帰ってくるというヘタレぶりを発揮したが、村人や家族は温かく出迎えてくれたという逸話が残っている。


 だが、剣術の腕は本物で天音同様に村を襲った悪党を打ち倒した話が伝わっており、どうやら普段は弱気だが村が襲われるなどで追い詰められるとスイッチが入って、凄腕剣士としての実力が発揮できたようだ。


 陽は彩音から朱音の話を聞かされた時、「流石はご先祖! 彩音ちゃんに似ているな」という感想を抱いたので、名前を付けるなら天音より朱音の方だとその名前を勧める。


「でも、朱音様って… ほら… ダメなところがあるじゃない? だから、天音様の方がかっこいいかな~って思うんだよね」


 彩音と朱音はかなり似ていると思われるのだが、本人としては似たくないと思っているようだ……


(オマエが言うな!! 鏡見せてやろうか? 目の前にその朱音さんのようなダメな子が映っているから!)


 だが、そんな朱音の名前を付けることを渋る彩音に、陽は心の中でツッコむ。


「でも、子孫にそんな事を言われたら、朱音さんも悲しむと思うよ? 逆に子孫が自分の名前を名乗ってくれたら喜ぶと思うな~」


 陽の説得を聞いて、悩み始める彩音。


(確かに昔から朱音様は天音様に比べられて、ダメなご先祖様扱いされている……。せめて同じダメな私だけでも朱音様をリスペクトしよう! だって、同じダメな子扱いされているんだから……)


 ※彩音はこう考えているが、朱音の剣士としての実績は十分素晴らしいものであり、ただそれを霞ませるダメエピソードが多いだけである。


 彩音は決意すると名前入力欄に“Akane”と入力し直した。


 <Akaneがプレイヤーネームになりました>


「これで私は今日からこのゲーム内では、アカネ様になるんだ…。よーし、このお名前を汚さないようにしないと!」


 陽に言われるままに名前を変えた彩音だったが、自分の名前をアカネにした事でその名に恥じないようにしようと決意を新たにする。


(立派な天音さんの名前より、少しダメな朱音さんの名前を付けるほうが、その名前がプレッシャーにならずに済むからね)


 数十年来の幼馴染であるため、陽にはヘタレな彩音が名前に押しつぶされることを予想しており、名前を変更させたのだった。


「これで彩音ちゃんのキャラクター名登録完了だね。じゃあ、“アカネちゃん”。ステータスの説明をするね」


「うん、お願い”ハルルちゃん”」


 二人は早速プレイヤーネームで呼び合うと、クスクスと笑いあう。

 ハルルはアカネのステータスウィンドウを指差しながら、彼女に項目の説明を始めた。


 ######


 名前:Akane

 Lv.1 

 HP:5 250/250

 MP:5 50/50

 ST:5 100/100

 STR:5 筋力 …筋力武器攻撃 補正 

 DEX:5 技量 …技量武器攻撃・命中・クリティカル・パリィ成功率 補正

 VIT:5 耐久 …防御力・所持可能総重量 補正

 AGI:5 敏捷 …回避・反応速度・移動速度 補正

 MAG:5 魔力 …魔法攻撃力・魔法防御力 補正

 MND:5 精神 …神聖魔法・状態異常耐性 補正

 LUK:5 運  …アイテムドロップ率・対状態異常付与 補正 


 ※筋力の数値だけその重量設定の武器と盾を装備できる


 ######


「ハルルちゃん、ステータスの数値が全部5なんだけど?」


「そりゃ、レベル1だからね。レベルを上げて手に入るポイントを振って、自分の好きなようにビルドしていくんだよ」


 このゲームには明確な”ジョブ”は無い。

 それぞれのステータスを、レベルアップ時に貰える2ポイントを割り振ることで強化して、脳筋戦士ロールプレイならSTRやVIT、魔法使いロールならMPとMAGを上げるという風に、自由に構成することが出来るので自由度が高いのだ。


「因みに私のステータスはこんな感じだよ」


 は参考に自分のステータスウィンドウを彩音に見せる。


 ######


 名前:Haruru

 Lv :20

 HP :10 500/500

 MP :10 75/75

 ST :9 120/120

 STR:8  

 DEX:18 

 VIT:8

 AGI:14 

 MAG:7  

 MND:5  

 LUK:6  


 ######


「私はガンナーをロールしているから、命中と回避力のためにDEXとAGIに多く振っているの。銃に関係ない筋力が8なのは、重量8のライフルを装備するためなの」


「色々考えて、ポイントを振らないといけないんだね」

「そうだよ! だから、アカネちゃんもポイントを振る時は慎重に決めないとダメだよ?」


「うわぁ~、大変そう」


 彩音は陽の言葉を聞くと、「う~ん」と考え込みながらステータス画面を見つめる。


「ちなみにアカネちゃんは、どのジョブのロールを考えているの? やっぱり侍? それとも別のジョブ?」


「別の職業にも興味はあるけど… 私はやっぱり侍かな~。刀とかあるの?」

「もちろん、ちゃんとあるよ。ほら」


 陽はそう言って、遠くにいる刀を腰に装備しているプレイヤーをそっと指差すが、続けて「ただし……」と付け加える。


「刀の入手は少し厄介なんだよ。売っている町は遠いしドロップする敵も強いんだよ。だから、私もまだ持っていないんだ~」


「そうなんだ…… 」


 がっくりと肩を落とす彩音。

 そんな彩音に陽は彼女にだけ聞こえるように、悪い笑みを浮かべながらこのような悪魔の囁きをしてくる。


「でも、大丈夫だよ。ほら、アカネちゃんにはこのゲームに限っては、不思議なポッケで何でも叶えてくれる“初音え○ん”がいるじゃない。お願いしたらどうかな? 10分と経たずにマイルームのポストに送られてくると思うよ?」


「それってズルだよね!?」


 彩音は頬を膨らませながら陽に抗議する。


「ズルではないよ。アイテムの受け渡しは公式でも認められているからね。ただ、達成感は失われるかな?」


「達成感か…… それならいいかぁ。お姉ちゃんに連絡しようかな♪」

「ええんかい!!」


 ゲーマーでは無い彩音には達成感など興味無い。

 その答えにゲーマーの陽は、思わず何故か関西弁で突っ込んでしまうのであった。

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